第5回 神の素粒子の次なるターゲットとは

 戸本さんによれば、エネルギーフロンティアの実験には特有の難しさがある。戸本さん自身は、フェルミ研究所のテバトロン実験でもエネルギーフロンティアを経験しているので、なおさら、その共通部分がはっきりと見えたという。

「新しいこと、解らないことを知るためにやっているわけですから、未知の問題は必ず起きるんですが、エネルギーフロンティア実験で特に難しいのは、何が起こるか予想もつかない! ってことですね。トリガーを設定する難しさにも通じます。変に人間のバイアスでもってこういうイベントしか要らないみたいなことをやってしまうと、せっかくあった宝物をみすみす落とす可能性があるわけです」

 これはよく言われることらしいのだが、未踏のエネルギー領域での実験は、ノウン・アンノウン(分かっていないと分かっている類の未知)ではなく、アンノウン・アンノウン(知られていない未知、つまり、ここが分かっていないということすら分かっていない未知)に挑むこと、だそうだ。

 それはたしかに同じ「未知」でも大きな違いだろう。

 アンノウン・アンノウンに挑んで勝ち取ったヒッグス粒子の発見だ。ましてや、戸本さんにとっては、ヒッグス粒子を探す2つめの実験だ。発見には格別な思いがあった(もちろん、格別な思いがなかった研究者などいないだろうが)。

ヒッグス粒子が4つのミューオン(赤線)に崩壊する事象と観測の様子。(画像提供:ATLASグループ)(画像クリックで拡大)