第4回 神の素粒子を検出するということ

宇宙を形づくる基本構成要素である素粒子の種類。(画像提供:高エネルギー加速器研究機構)(画像クリックで拡大)

 小林誠(高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所元所長)と益川敏英(京都大学基礎物理学研究所元所長)、2氏による「CP対称性の破れ」についての予想はこの実験で検証され、2008年のノーベル物理学賞受賞につながったので、ご存じの方も多いだろう。個人的には、このお2人の予想が真実味を帯びるようになると、クォークの種類が増えるなど素粒子物理が「複雑怪奇!」と感じられるようになった(と愚痴っても仕方ないが)。もっとも、理論についてちんぷんかんぷんでも、ここで大事なのは、実はこの研究が、「質量」の起源にもつながっているということだ。

「博士論文を書きながら、CP対称性の破れが、どこが発端で出ているかっていうことを考えていると、結局、質量なんだということに気づかされました。そして、質量を決めてるものは何なのかと考えたときに、それは、ヒッグスなんですよね。これ、ちゃんと標準模型を勉強したらわかる話なんですが、当時、勉強が足りなくて。少なくとも標準模型の中では、ヒッグスが質量を決めている。それで、やっぱりヒッグスを探さないと、CP対称性だけやっていてもどうしようもないだろうというふうに個人的には思えてきて。2001年、まだLHC加速器は動く前の段階でしたので、まずは若いうちはデータをちゃんと扱いたいなと思って、当時のエネルギーフロンティアだった、アメリカ・シカゴにあるフェルミ研究所のテバトロン実験に行ったんです。そこで2TeV(テラ電子ボルト)の実験をしました」

 テバトロン実験は、小林・益川理論で予言されたトップクォークを発見したことで知られる。ヒッグス粒子を作るにはエネルギー的には足りていたものの、充分に統計的に意味があるだけのデータを稼げず、そうこうするうちに、名古屋大学がCERNのLHC実験にかかわることになったため、戸本さんも、それでは、とばかりに合流することとなったのである。

 戸本さんのウェブサイトで、「エネルギーフロンティア実験を渡り歩いている」と自己紹介があるのには、このような背景がある。

ATLASのある建物の壁に検出器が描かれていた。(写真クリックで拡大)

『神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器』
ポール・ハルパーン著
武田正紀訳、小林富雄日本語監修

「神の素粒子」ことヒッグス粒子の発見を目指すCERNと、そこに至るまでの素粒子物理学の道のりをドラマチックに描いたサイエンス・ルポルタージュ。CERN、素粒子物理学、加速器実験などについてもっと知りたい人はこちらもどうぞ。
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つづく

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider