第2回 物理学者を「救った」CERN計画

「SSC、超伝導超大型加速器。1984年に始まったアメリカの計画です。これはCERNのLHC加速器よりちょっと先行していたんです。テキサス州に周長87キロの加速器を作るってことですから、CERNのトンネルの3倍ぐらいあって、20テラと20テラの陽子をぶつけて合わせて40テラ電子ボルト。LHC加速器のアップデートが予定どおりいって、来年から稼働しても、7テラ足す7テラで、14テラ、3分の1くらいなんです。私、SSC計画のために4年、働きました。日本とテキサス州ダラスを何度も何度も往復して。でも、20%ぐらいトンネルを掘ったところで、コストの問題で中止になってしまったんです。40億から50億ドルと言われたのが120億ドル以上にふくれあがって、アメリカの中で宇宙ステーションとSSC加速器のどちらを残すかとか92年から93年にかけて大きな議論になりました。そして、クリントン政権になってからばっさりと切られてしまったという」

 中止になる前、その前のブッシュ大統領(41代)から、日本政府へ10億ドルの資金協力を要請され、当時の宮沢政権は、資金源として国際貢献税案を打ち出すなど、日本国内の政治問題にも発展した。いくらなんでもお金を使いすぎだと批判の的になり、日本からSSC加速器に参加していた30人ほどの研究者は孤立した。近藤さんは、物理分野の研究者コミュニティの中で四面楚歌の状態を味わったという。

「同じ実験物理の分野でも、もう全部やめろとか言われましたね。それで、結局、日本からの資金は出なかったし、アメリカでも中止しちゃうし、かかわっていた人は、“物理難民”になっちゃった。アメリカでは1000人くらいいました。日本でも30人、私のグループでも数名、いや10人くらい。それで、アメリカの人達も含めて、エネルギーフロンティアをやりたい人達は、CERNの計画に救われたわけです」

フロアに描かれたCERNのレイアウト図でATLASの場所を示す近藤さん。(写真クリックで拡大)

『神の素粒子 宇宙創成の謎に迫る究極の加速器』
ポール・ハルパーン著
武田正紀訳、小林富雄日本語監修

「神の素粒子」ことヒッグス粒子の発見を目指すCERNと、そこに至るまでの素粒子物理学の道のりをドラマチックに描いたサイエンス・ルポルタージュ。CERN、素粒子物理学、加速器実験などについてもっと知りたい人はこちらもどうぞ。
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つづく

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider