第1回 人類史上最高のエネルギー状態を作りだす研究所へ

 放射線管理区域であり、アクセス管理は厳重だ。研究者や職員は目の虹彩を使った生体認証を要求される。一方、ぼくは、そういった登録をしていない想定外の訪問者なので、きちんと立ち入り許可の書類を作成した上で、荷物の出し入れに使われる出入り口から中に入った。

 狭い年代物のエレベーターに乗って下り、扉が開いた先は、アンダーグラウンドなワンダーランド! とやや興奮しつつ、足を踏み出した。

 最初の発見は、なんと、壁に立てかけられた自転車! なにしろ一周27キロのリング状トンネルだ。移動には自転車を使うらしい! どうでもいいような細部に、リアリティを感じてしまう。

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 トンネル自体は、直径3.8メートルと狭く、古びている。先代のLEP加速器の時代から使われているものだから「歴史を感じさせる」ともいえる。

 加速器本体は、目視で直径70-80センチほど、長さ15メートルほどの金属の管が連なったものだった。陽子のビームが通る2本の管が中心部にあり、まわりを超伝導磁石のコイルや、液体ヘリウムで1.9ケルビンという極低温に冷やすための配管や断熱材などが取り囲んでいる。陽子を加速するには電場が、曲げるためには磁場が必要だ。強大な磁場のためには大電流を流さねばならず、発熱を防ぐために電気抵抗がゼロになる極低温の超伝導を実現しなければならない。なお、陽子ビームの管が2本あるのは、それぞれ逆方向に加速し、最後は正面衝突させることで、より高いエネルギー状態を実現するためだ。

LHC加速器本体をあけたところ(左)。中央を通る2本がビーム管だ(右)。(写真クリックで拡大)

 ビームの管だけでなく、ヘリウムの配管など、かなり複雑な構造の15メートル管を、CERNの研究者たちは、単に「マグネット」(磁石)と呼んでいた。

 最初は、おおっ、と純粋に感動して見ていたのだが、ふと疑問を抱いた。

 LHC加速器では、こういった「マグネット」が各種とりまぜて1700台以上使われていて、1周27キロのリングをなしていると聞いている。しかし、この連なりは、どうみてもまっすぐで、曲がっているように見えないのだ。これはどういうわけだ。

目下、次の実験に向けてアップグレード中。(写真クリックで拡大)