第86話 若犬たちにも、10代の反抗期?

 やむなく蹴りを入れながら必死に喧嘩を止めたトーニャは、荒息を吐きながら、ことの発端を話してくれた。

 原因は、この冬デビューしたばかりで、ついこの秋まで子犬だったロッキーとグレイだったのだ。

 ミンチュミナ湖の氷上を、対岸まで一直線に走るだけの簡単なコース。

 危険な加速がつく下り坂も、遠心力がかかる難しいカーブもないその単調さが、きっと犬橇デビューしたてのエネルギーが有り余った若い犬たちには、物足りなかったのだろう。

 2匹は集中力を欠き、よそ見をしたり、飛び跳ねて横の犬に体当たりしたり、繋がれているラインをかじってみたり。

 まったくもって、まっすぐと真面目に走ろうとしなかったのだ。

 そんな2匹の近くには、アーセルが繋がれていた。

 彼は、指のない足で走る頑張り屋さんでありながら、温厚で優しく、安定した性格の持ち主であることから、どの犬とも相性がいい。

 特に若い犬たちには、やんちゃな行いをちゃんと叱ってあげる、「いい大人」と言った感じの犬だった。

 だから、トーニャもアーセルのことを信頼して、若い犬たちの躾け役や教育係を任せていたのだ。

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