第5回 波長10億光年以上の重力波

 チリといえば、前回、ミリ波・サブミリ波望遠鏡のアルマについて紹介したばかりだが、このPOLARBEARも、アタカマ砂漠の高地、アルマのすぐ近くに設置されている。アタカマ高地は、すばる望遠鏡があるハワイ島マウナケア山と同様に、世界の天体・宇宙観測の中心地となりつつある。

 なお、Bモード偏光が発見され、「インフレーションの発見!」と高らかに言えた時、このテーマでノーベル賞が出るだろうとのこと。ほかの天文学者、宇宙論研究者からも同じことを聞いたことがあるので、それだけ大きな発見だというのは間違いない。さらに小松さんの見立てでは、インフレーション理論の提唱者である、佐藤勝彦博士はその際の有力候補だそうだ。

(写真クリックで拡大)

「もし本当にあるのなら、それほど長くはかからないと思いますよ」と小松さんは力強い予測を述べていた。「2020年代のはじめ頃には、決着がつくんじゃないかなあ」と。

「もし本当にあるのなら」というのは、ない場合もありうる(つまりインフレーションがなかったシナリオもあり得る)ということで不穏だが、いずれにしても結論が出るのは遠い未来ではないようだ。

 と、ここまで書いたところで、発見の報が届いた。2014年3月17日のことだ。

 アメリカの大学などが南極に設置し運用しているマイクロ波望遠鏡BICEP2(この連載で紹介した宇宙開発ベンチャーの高橋有希さんが、大学院生時代に設置し、データを取ったBICEPの後継)が、インフレーション起源の重力波を捉えた。小松さんが予想した2020年代はじめよりも、ずっと早く、その瞬間がやってきた。

 ただし、小松さんによれば、この発見については、大いに興奮しつつ(小松さん自身、その後、5日間で体重が2キログラム減り、発熱して体調を崩したほどだという)、少し慎重にならねばならないという。BICEP2による観測は波長2ミリによるもので、それが、ほかの波長でも想定される分布を示しているか観測される必要がある、と。そのあたりは、小松さん自身が、解説を寄せてくださったので、ぜひそちらをご参照のこと! この「発見」の意味、意義がよくわかります。

小松さん自身による解説「「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった」はこちら。

つづく

小松英一郎(こまつ えいいちろう)

1974年、兵庫県生まれ。マックス・プランク宇宙物理研究所所長。カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員。2001年、東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。プリンストン大学、テキサス大学を経て、2012年8月より現職。宇宙マイクロ波背景放射観測衛星WMAPのプロジェクトに主要メンバーとして関わり、宇宙の組成や年齢などの重要項目を次々と解明。筆頭著者を務めた論文は2009年、2011年度の最多引用論文に選ばれた(トムソン・ロイター調べ)。『ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化』『ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化』の訳書がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider