第3回 ビッグバンは宇宙の始まりではない

「実は、僕たちは、ビッグバンって、宇宙の始まりだと思ってないんですよ。といいますか、ビッグバン宇宙論が結局何を言っていたかっていうと、宇宙は昔熱かったっていうことだけなんです。宇宙が昔熱ければ、みんなうまく説明できるということで。じゃあ、宇宙がいかにして熱くなったか言わないといけないわけです。それが1つ問題でして、宇宙は始まるとすぐにインフレーションが起きてバッって広がるわけですよね。するとやっぱり宇宙は冷えちゃうので、インフレーションが終わる頃には、宇宙めちゃくちゃ冷たいんですよ。それはどう考てもビッグバン宇宙じゃない。そこで、インフレーションで宇宙をワッと引き伸ばした何だかわからないエネルギーがあると考えて、このエネルギーが突然、熱に変わる。というような段階を経て、初めてビッグバン宇宙はスタートするっていうことですね」

 いやあ、驚いた。自らの不明をはじた。

 ずっと「ビッグバン=宇宙の始まり」と信じていたのだが、今の宇宙論では、ちょっと意味合いが違うのである。

「実際、宇宙論業界やそのまわりでもインフレーションとどう整合をつけようか皆さん迷われてると思うんです。僕は、だから宇宙の始まりという意味でビッグバンという言葉は使わないですね。できるだけ使いたくないです」

 たぶん、宇宙論の展開を常時チェックするような立場、興味の人を除いて、この件、知識がアップデートされていなかった人は多いのではないだろうか。お話を伺いつつ、驚いたことが多々ある中で、ぜひ紹介しておきたいことであった。

つづく

小松英一郎(こまつ えいいちろう)

1974年、兵庫県生まれ。マックス・プランク宇宙物理研究所所長。カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員。2001年、東北大学大学院理学研究科天文学専攻博士課程修了。プリンストン大学、テキサス大学を経て、2012年8月より現職。宇宙マイクロ波背景放射観測衛星WMAPのプロジェクトに主要メンバーとして関わり、宇宙の組成や年齢などの重要項目を次々と解明。筆頭著者を務めた論文は2009年、2011年度の最多引用論文に選ばれた(トムソン・ロイター調べ)。『ワインバーグの宇宙論(上): ビッグバン宇宙の進化』『ワインバーグの宇宙論(下): ゆらぎの形成と進化』の訳書がある。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider