第2回 宇宙にシワがあるのはなぜなのか

 ウィルキンソン博士は、宇宙背景放射の世界ではパイオニアであり、観測の発展に寄与した伝説的な人物だ。小松さんの研究史は、その始まりの時点で、ぎりぎり「パイオニアにしてレジェンド」と交わっている。

 さて、宇宙背景放射が発見された時点では「等方性」(どの方向も同じで、のっぺりした性質)を持ったものとして見えていた。しかし、単純にのっぺりした背景放射では、今の宇宙を説明できない、という意見がすぐに出てきた。今の宇宙は銀河系にしろ太陽系にしろ、そもそも我々自身にせよ、物質が集積してできている。もしも、宇宙の始原が完全にのっぺりしたものなら、物質の分布にムラがある今の宇宙の状態に発展できない、と。

 そこで考え出されたのが、宇宙が始まったきわめて初期に、急激に膨張するというインフレーション理論だ。1981年に京都大学の助手だった佐藤勝彦博士が提唱し、引き続いて様々なバージョンを多くの研究者が唱えた。これらの理論が予言したのが、のっぺりした成分の上に乗ったわずかなゆらぎだった。小さなゆらぎがあるがゆえに、宇宙には濃淡があり、それが発展して、今の銀河系や、太陽系や、地球や、我々が存在することに繋がっている、と。

 それがまさに観測上の焦点となったわけだが、それを知るためには地球上からは無理で、人工衛星での観測が必要だった。

「アメリカがCOBEという観測衛星をあげて、そこを詳しく見たんです。それで、まず宇宙背景放射をより高い精度で求めて、2.725ケルビンとしました。これは、のっぺり成分のより正確な値ですね。それに加えて、温度のゆらぎがあるか確かめる専用の観測装置で詳細に見たところ、実際に微妙な温度のゆらぎが確認されました。1ケルビンの10万分の1というスケールで、宇宙背景放射はゆらいでいて『シワがたくさんある』。これは理論が予言するのとピタリと同じだったので、インフレーション理論が標準的な理論と考えられるようになりました。1992年のことですので、僕はまだ高校生でしたね」

1965年の観測ではのっぺりしていた宇宙背景放射だったが、COBE衛星やWMAP衛星での精密な観測により、インフレーション理論の予言どおり「シワ」が観測された。(出典:NASA / WMAP Science Team)(画像クリックで拡大)