「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった――小松英一郎氏緊急寄稿

インフレーションがあれば、量子ゆらぎは重力波を作り出し、重力波は宇宙マイクロ波背景放射の偏光をもたらすことになる

 そこで登場するのが「重力波」である。重力波とは、一言で言えば「動く空間の歪み」である。例えば、私が持つ重力により、私の周りの空間はわずかに歪んでいる。このままだと歪みは動かないが、私が手を伸ばしてくるくる回れば空間の歪みも変化し、その変化は周りに伝わってゆく。これが重力波である。私が作る事のできる重力波は微弱すぎて問題にならないが、インフレーション中の量子揺らぎから作られた重力波であれば測定できる可能性がある。

 インフレーション中には、あらゆる波長を持つ重力波が作られる。例えば、波長が何10億光年もあるような重力波が作られる。そんなとてつもないものが発見されれば、インフレーションが証明されたと考えるしかないというのが宇宙論研究者の共通認識である。

 では、どうすればインフレーション起源の重力波の痕跡を発見できるのか?

 ここで再登場するのが火の玉宇宙の残光「宇宙マイクロ波背景放射」である。重力波が火の玉宇宙を伝わると、宇宙マイクロ波背景放射に「偏光」をもたらす。その原理は次のようである。まず、光は空間を伝わる電磁場(電場や磁場の振動)である。太陽から来る光は、あらゆる方向に振動する電磁波を等量含むので、特定の方向の振動が強くない状態、つまり「無偏光」であると言う。この太陽光が、海面やガラス窓に反射され、我々に届いたとしよう。この反射によって、ある特定の振動方向(海面やガラス窓に平行な振動方向)を持つ電磁波のみが選択的に我々に届く。従って、「一方向から入射する光の反射」という現象を通して無偏光の光が偏光を持つようになるわけである。

 より一般的には、光が一方向から入射せずとも偏光を生む事ができる。宇宙マイクロ波の場合を考えるため、海面の代わりに電子を、反射の代わりに散乱を考えよう。我々の目の前に電子が1つ(あるいはたくさんの電子からなる雲)があると想像して欲しい。そこへ、上から無偏光の光がやってきて、電子によって散乱されたとしよう。すると、さきほどの海面の場合と同様、我々は横方向に選択的に振動(偏光)する光を受け取る。しかし、光は四方八方から電子に届く。右方向から届く無偏光の光が電子によって散乱されれば、我々は縦方向に偏光する光を受け取る。四方八方から届く光が散乱されれば、結局我々はあらゆる振動方向を等量含む無偏光の光を受け取る。

 しかし、ここで電子を取り巻く光の温度が異なる場合を考えよう。より詳しく言えば、電子から見て90度方角を変える度に「熱い、冷たい、熱い、冷たい」となるような温度分布を考える。例えば、電子から見て上、右、下、左に熱い、冷たい、熱い、冷たいとなる光の分布があれば、散乱されて我々に届く光は選択的に横方向に大きな振動を持ち、偏光する。従って、宇宙マイクロ波背景放射が偏光するための条件は、「光が電子によって散乱され、かつ電子の周りの温度分布が熱い、冷たい、熱い、冷たいとなっている」事である。

 では、何が「熱い、冷たい、熱い、冷たい」を作るのか。これが重力波の仕事である。重力波は空間を伸び縮みさせる。空間が伸びると、光の波長も伸びるため、エネルギーが下がって温度が下がる。逆に空間が縮むと、光の波長も縮み、エネルギーが上がって温度が上がる。重力波は、進行方向に対して左右の空間を延ばす時には上下の空間を縮ませ、上下の空間を延ばす時には左右の空間を縮ませる、という特性がある。この特性こそ、まさに電子の周りに「熱い、冷たい、熱い、冷たい」を生み出すのにうってつけなのである。

 BICEP2は、このようにして生み出された宇宙マイクロ波背景放射の偏光を発見したと主張した。この発見が本当であれば、インフレーションが証明され、我々はついに万物の根源が何であったかを知るに至った事になる。

>次ページ:大々的なプレスリリースはギャンブル。決着は遅くとも2年以内に