「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった――小松英一郎氏緊急寄稿

宇宙マイクロ波背景放射こそ火の玉宇宙の残光

 宇宙初期は熱い火の玉状態であった。その証拠に、火の玉宇宙を満たしていた光は、消え去る事なく今日でも宇宙を満たし、宇宙初期に関する貴重な情報を伝えてくれる。これが宇宙マイクロ波背景放射である。

 光にはさまざまな波長が含まれており、その輝度は波長によって異なる。火の玉宇宙の光の輝度を波長ごとに測定すると、測定データはドイツの物理学者マックス・プランクによって1900年に考案された「黒体放射」と呼ばれる理論曲線上に乗る。この曲線は温度を決めれば完全に決まり、データから得られた温度は絶対温度で2.7ケルビンと極低温である。

 これは、宇宙空間の膨張にともなって個々の光子がエネルギーを失い、宇宙が冷えたためである。このような低温の光は可視光で測定できず、可視光より千倍ほど波長の長いマイクロ波での測定が必要となる。現在、この火の玉宇宙の残光「宇宙マイクロ波背景放射」は、1立方センチあたり410個もの光子として測定できる。我々の周りには、おびただしい数の火の玉宇宙からの光子が飛び交っているのである。

宇宙マイクロ波背景放射の発見と、火の玉宇宙残光であることが明らかになった経緯

 宇宙マイクロ波背景放射は、1965年、米国ニュージャージー州のベル研究所(当時)に勤務していた電波天文学者アーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンによって発見された。発見はベル研究所が所有する口径20フィート(約6メートル)の電波望遠鏡でなされた。この最初の測定は波長7.3センチで行われた。しかし、単一の波長の測定ではこの光が黒体放射であるかわからない。翌年プリンストン大学のデービッド・ウィルキンソンとピーター・ロルによる波長3.2センチでの測定が報告された。この時点では測定点はまだ2点しかないが、これら2点が3ケルビンの黒体放射の理論曲線と一致する事が示された。その後、NASAが1989年に打ち上げたCOBE衛星により、宇宙マイクロ波背景放射が2.7ケルビンの黒体放射である事が高精度で示され、宇宙がかつて熱い火の玉状態であった事が証明された。

点は実際に観測されたデータで、曲線は各温度の光の黒体放射による理論値。このとおり、宇宙マイクロ波背景放射のデータは2.7ケルビンの黒体放射の理論値と一致し、宇宙がかつて火の玉状態だった事が明らかになった。(画像クリックで拡大)(画像提供:小松英一郎)

 宇宙マイクロ波背景放射の温度は、(地球の運動によるドップラー効果の影響を除けば)どの方向を見てもほぼ2.7ケルビンである。しかし、1992年、COBE衛星が測定精度を大幅に改善した結果、実は数10マイクロケルビン程度、方向によって温度が異なる事が発見された。実に10万分の1の微弱な「揺らぎ」が発見されたのである。現在では、この微弱な揺らぎが重力によって増幅され、銀河、星、惑星、ひいては我々が誕生したと考えられている。

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