「宇宙誕生の重力波」はまだ証明されていなかった――小松英一郎氏緊急寄稿

「宇宙誕生の重力波を初観測」「宇宙誕生直後のインフレーション的宇宙膨張の決定的証拠を発見」「ノーベル賞級の成果」といったニュースが先日飛び交った。しかし、詳しい解説はほとんど紹介されておらず、何がどこまでわかったのか、いったい何のことやらと首をひねった人は多いのではないだろうか。そこで、宇宙物理学の最前線で活躍するマックス・プランク宇宙物理学研究所所長の小松英一郎氏に原著論文の内容を解説、検証してもらった(Web編集部)。

 3月17日、衝撃的なニュースが世界中を駆け巡った。そのあまりの衝撃に、その後の5日間で私の体重は2キロ減り、発熱までして体調を崩してしまった。

 宇宙が誕生直後、原子核ほどの大きさが瞬く間に太陽系ほどの大きさになってしまうような大膨張を起こしたとし、銀河、星、惑星、そして我々人類の起源すらも説明する「インフレーション宇宙論」が「BICEP2」という実験によって観測的に証明されたというのである。本当であれば未曾有の大発見であり、人類が、宇宙の認識において自ら辿り着ける究極の領域までやって来た事を意味する。しかし、論文を読んでみると、実は論文に使われているデータだけでは、インフレーション宇宙論を証明する上で絶対にクリアすべき課題の1つがクリアできていない事がわかる。

 BICEP2は、南極に設置した口径26センチの屈折式望遠鏡を用いた観測実験の名称で、米国ハーバード大学、カリフォルニア工科大学、NASAジェット推進研究所、スタンフォード大学、ミネソタ大学が中心となって開発・運用された。測定対象は「宇宙マイクロ波背景放射」の微弱な偏光である。

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本誌2014年4月号でも特集「宇宙誕生 見つめる目」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。フォトギャラリーはこちら。また、Webナショジオ「研究室に行ってみた。」でも小松英一郎氏が登場する回を3月31日から続けて公開しています。ぜひあわせてご覧ください。