第6回 10歳で誘拐され、地下室に8年間監禁されたウィーンの少女

脱出

 18歳の誕生日が過ぎると、ナターシャはプリクロピルのすぐ横について、外に出ることを許された。ただし、ちょっとでも声を出したら撃つと脅された。

「それから彼は私の首をつかんで流し台まで引っ張って行くと、頭を水に押し込んで、気を失いそうになるまで首を絞めました」

 2006年8月23日、ナターシャは庭でプリクロピルの車の掃除をしていた。午後12時53分、携帯電話が鳴ったため、プリクロピルは掃除機の騒音から離れた場所に移動して電話を受けた。ナターシャはチャンスだと思った。掃除機を地面に置くと、走って逃げた。

 プリクロピルはナターシャが出て行くのを見ていなかった。電話をかけてきた相手はのちに、電話を終えるとき彼は落ち着いていたと語っている。おかげでナターシャは非常に有利なスタートを切ることができた。何年ものあいだ、これほど速く脚を動かしたことはなかった。

 郊外の住宅の庭を200メートル駆け抜け、フェンスを跳び越え、通行人に警察に電話するよう頼んだ。なかなか本気にしてもらえず、脱出から5分後、ある家の前に立ち止まり、必死で窓を叩いた。
 その家に住む71歳の婦人は、だらしない格好をした青白い顔の若い女がこちらを覗き込んでいるのを見て、面食らった。「ナターシャ・カンプシュです」と女は言った。