吹き抜けのある広々とした建物の2階の執務室で、小松英一郎さんは待っていた。研究所のDirector、所長と訳すべき立場だが、1974年生まれ。脂の乗りきった時期にある現役バリバリの研究者だ。

 ちょうどワールドカップの記憶を辿りながら研究室にたどりついたので、ぼくは自然とドイツ・ブンデスリーガでプレイするサッカー選手になぞらえるように小松さんを見た。それでいうなら……小松さんは、異色だ。常に裏を狙う日本人アタッカー的なスタイルではなく、小柄ながら当たり負けしない強さを持ち、ポストプレイをきちっとこなしつつ、ゴール前での執念と嗅覚とスタミナは超1級、というタイプのセンターフォワード。それもワールドクラス。半日、研究所に滞在し、お話を伺いつつ、研究所を運営していく日常業務をみていると、そのようなイメージが自然と浮かんできたのだった。

 若くして、いわば「宇宙物理学研究のトップリーグ」に、それもエースとして所属する小松さんは、当然ながらその世界では知らぬ者がいない存在だし、少しでもサイエンスの世界に身を置いたり、興味がある者なら凄みが分かる「冠」もある。

 2007年、2009年、2011年、3回にわたって、世界で発表されたすべての科学論文の中で、一番たくさん引用された論文(トムソン・ロイター調べ)の主要著者であり、2009年と2011年には筆頭著者を勤めた。物理学の中で、天文学の中で、医学の中で、という枠組を超えて、ことサイエンスと名のつくすべての分野で最も注目を浴びたと言ってよいわけで、ものすごいことである。2000年代から本格的な研究者のキャリアをスタートさせた小松さんにしてみると、これは後々「初期の業績」とされる若き日の研究成果だ。

 そこで、今も精力的に前に進みつつある小松さんとその研究について語るには、大きく分けて2つの切り口がありそうだ。つまり、「これまで何をしてきたの?」と「これから何をするの?」。

マックス・プランク宇宙物理学研究所所長の小松英一郎さん。(写真クリックで拡大)

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