持続可能な漁業を目指して、ますます注目される定置網

定置網にかかったクロマグロを引き揚げるスペインの漁師たち。写真=Brian Skerry
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枯渇が心配される水産資源

 周囲を海に囲まれ、独自の魚食文化を築いてきた日本では、多くの人が未来永劫、美味しい魚を食べ続けたいと思っていることだろう。しかし、水産資源を取り巻く状況は決して楽観視できるものではないようだ。

 本誌で紹介した通り、高級寿司ネタになるタイセイヨウクロマグロの資源は危機的状況にあるが、乱獲が資源量に暗い影を落としているのは決してマグロだけではない。大西洋のマダラや、太平洋のペルーカタクチイワシは乱獲によって枯渇状態にあると言われている。そのため国連食糧農業機関(FAO)は、1992年にメキシコのカンクーンで開催された国際会議で「責任ある漁業」という概念を打ち出し、持続可能な漁業を求めている。

 これまで乱獲の一因となってきた漁法については操業方法を見直す必要がある。例えば、魚群を取り囲むように網を広げて捕える旋(まき)網や、袋状の網で追いかけて捕えるトロール網(底引き網)といった漁法は、魚群を一網打尽にしてしまうだけに、未成熟な若魚ばかりの魚群であれば、彼らの繁殖の機会を奪うことになり、水産資源の回復に悪影響を与えてしまうだろう。

 今後、厳密な漁獲管理を行っていかなければならないが、なかなかうまくいっていないのが実情だ。そこで、近年、注目を集めているのが定置網だ。

捕えられる魚はごく一部

 定置網は、その名が示す通り魚の通り道に漁網を設置して捕える、いわば待ち伏せ型の漁法である。魚は大海原を自由気ままに泳いでいるように見えて、実は決まったルート(これを「魚道」と呼ぶ)を通って泳いでおり、魚道をふさぐように網を設置することで魚を定置網の奥にまで誘い込む。

 沿岸を回遊してきた魚群は、まず定置網から陸に向けてまっすぐに伸びた垣網にぶつかる。障害物にぶつかった魚は沖に向かって泳ぐ習性があるため、垣網の沖には運動場と呼ばれる大きな口を開いた囲い状の網が設置されていて、垣網に沿って泳いだ魚は運動場に入っていく。

 運動場に入った魚は自由に泳ぎまわるものの、いつしか運動場につながった登り網に誘導されていく。登り網はしだいに幅が狭くなるとともにせり上がっているため、登り網を抜けて、その先の箱網に入ると後戻りできなくなり、最終的に箱網で漁獲される。垣網から運動場、登り網、そして、箱網へと魚を誘導できるよう、定置網は考え抜かれた構造になっているのだ。

 それでも運動場からなら逃げ出す魚は多く、箱網で捕えられるのは運動場に入った魚のごく一部でしかないという。旋網やトロール網のように魚を一網打尽にすることがないため、乱獲してしまうリスクは少ないと考えられる。

過度のストレスを与えない

 しかも、追いかける漁法ではないため、魚に過度のストレスを加えることはないと考えられている。トロール網のように魚を追いかけて捕える漁法では、たとえ逃げ切ってもストレスによって生き残るかどうかが心配されるが、定置網の場合、運動場に入っただけでは、そこが漁網の中だと魚が気付くことはないだろう。過度にストレスが加わることもなく、逃げ出したもののストレスで死んでしまうことはないはずだ。

 すべての魚種に定置網が有効というわけではないが、FAOが提唱する持続可能な「責任ある漁業」の実現に向けて、定置網の役割が今後大きくなっていくに違いない。

(文・斉藤勝司)