かつてローマ帝国の支配下にあった南仏の町アルル。水運による町の繁栄を支えたローヌ川の底から、約2000年前の平底船が発見された。

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南仏で発見 古代ローマの沈没船

かつてローマ帝国の支配下にあった南仏の町アルル。水運による町の繁栄を支えたローヌ川の底から、約2000年前の平底船が発見された。

文=ロバート・クンジグ/写真=レミ・ベナリ

 2004年の夏、南仏の町アルルを流れるローヌ川で考古学調査をしていたダイバーが、水深4メートルの川底の泥の中から木材の塊を発見した。
 後にこれが、古代ローマ時代の木造船の一部と判明。紀元1世紀に河川交易のために建造された、全長31メートルの平底船が沈んでいたのだ。

 紀元1世紀のアルルは、ローマ帝国の属州ガリアへの玄関口だった。地中海各地から集まった物資は、ここで川船に積み替えられ、北方へと運ばれた。
 アルルの人々は、かのユリウス・カエサルから、軍事支援への見返りにローマの市民権を与えられた。現在の町の中心であるローヌ川左岸には、2万人を収容した当時の円形闘技場が残っている。
 一方、町の繁栄を支えた全長1キロにわたる港があった右岸には、たいした遺構はない。ただ、ローマ時代のごみが川底に沈んでいるだけだ。

 ごみの多くは、素焼きのつぼ「アンフォラ」だ。ワインやオリーブ油、魚醤などを帝国内の各地へ運ぶ容器として数多く使われていたが、古代ローマの人々はほとんどを使い捨てにしていた。
 見つかった木造船は、川へ捨てられたアンフォラと泥の層に2000年近く埋もれていた。そのため船体の大半はほぼ原形をとどめ、最後の積み荷や、乗組員の私物まで残っていた。

カエサル像が呼び込んだ幸運

 ローヌ川の流れの激しさはフランス随一。洪水や疫病をもたらす川として、地元でも恐れられてきた。考古学者のリュック・ロングは「あの川に潜りたいだなんて、思ったこともなかったよ」と言う。
 ロングは1986年に、沈没船の遺物ハンターである友人に誘われて、故郷のローヌ川で潜水調査をした。その川底で大量のアンフォラを見つけたのだ。

 以後の地道な調査で、平底船のほか、コリント式円柱の柱頭や、ビーナス像、海と航海の神ネプチューンの像など、さまざまな遺物が見つかった。
 船の未来を決定づける大発見があったのは2007年、川に潜れるシーズンが終わる直前のことだった。ユリウス・カエサルらしき大理石の胸像だ。カエサルの存命中、おそらくアルルを植民地にした直後に制作された、現存する唯一の像かもしれない。

 希少なカエサル像発見のニュースはたちまち世界中に広まった。この像を中心に据えた博物館の企画展には40万人もの人々が訪れ、これが追い風となって助成金を獲得。古代ローマの平底船は、ついに水中から引き揚げられることになった。

※ナショナル ジオグラフィック2014年4月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 現代の川をさらってみたら、キリストが生きていた時代の遺物がざっくざく……というお話。恐竜の時代に比べたら、聖書の世界は意外と最近のできごとなのだと、改めて実感することができました。しかし、遺物も当時は“ごみ”だったわけで、言い換えれば不法投棄。人間のすることは、たいして進歩していないこともうかがえます。(編集H.O)

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