第3回 収容所から脱出し、1600キロを徒歩で逃げたアボリジニ3少女

 10月初旬、砂埃にまみれた2人の少女は、ついにジガロングに足を踏み入れた。地球上で最も苛酷な土地を1600キロ以上も歩いてきたのである。

物語は終わらない

 故郷に帰ってきたとはいえ、少女たちはなお、当局に追われる身だった。2人の家族はどちらも、再び政府に娘を奪われることを警戒して、すぐに居場所を変えた。だが当局は少女たちが語るにちがいない物語の影響力に気がついたのだろう、数週間後に追跡を中止した。

 少女たちの脱走は忍耐力と不屈の人間精神の勝利を示すものではあったが、その旅はめでたしめでたしで終わったわけではなかった。少女たちが暮らす土地では相変わらず差別が存在した。

 列車に乗って会いにいった、グレイシーの母親はウィルナにいなかった。グレイシーは収容所に送り返され、使用人として生涯を送り、1983年に亡くなった。

 モリーも使用人となり、結婚して2人の娘をもうけた。しかし1940年、虫垂炎でパースに運ばれた後、政府からの直接命令でムーアリバーの収容所に送還された。驚いたことに、このときも収容所から脱走し、徒歩でジガロングまで帰ったのである。不幸にも、一緒にいた2人の娘のうち1人しか連れて帰ることができなかった。3歳の娘ドリスは収容所に残り、そこで成長した。ドリスはのちに母親の最初の旅に関する本『裸足の1500マイル』を書き、2002年に映画化された。

 デイジーは3人の中で最も幸福な生涯を送った。その後ずっとジガロングで暮らし、そこで家政婦として働き、結婚して4人の娘に恵まれた。


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