第80話 そんな覚悟要る? アメリカ社会の闇

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 怪我人を乗せた橇を引いて山を登るとは、こんなに大変なものなのか……。

 もともと体の大きな人ではあるが、怪我で動けず、ぐったりと身を委ねてしまっているのだから、まるでピラミッド建設の石を運ぶように重い。

 3人で橇を引いても、小さな歩幅で5歩進むのが精一杯。

 すぐにも息が上がって、休憩を取らなければ次の足が出せないのである。

 友人たちが連れていた犬も、スキージョーに使われる犬だったので、加勢になるかと私たちと一緒にロープにつないでみたが、重過ぎて困惑しているだけだった。

 絶望的に少しずつしか進まない橇の上で、じっと耐えていた彼が、先ほどよりも震えだした。

 怪我は、予想以上に体温を激しく奪うために、ハイポセラミア(低体温症)の危険も考えられた。

 太陽が、無情にも真っ赤な光を放ちはじめた。

「ああ、太陽が沈んでしまう……」

 皮肉にも、その光は目を奪うほどに美しく、世界を一気にまっピンクに染めた。

 カップルの彼氏の方は、アラスカ大学の山岳調査隊メンバーとして、毎年のようにマッキンリー山に登っている。

 その彼が、音を上げるように言った。

「これは、マッキンリー登頂よりもキツイよ……」と。

「え? この情況はマッキンリー登山よりもキツイの?」

 私は驚いた。

「そうだよ。この苦しみを乗り越えられたら、君もマッキンリーに登れるよ……」

 彼は、荒息を途切れ途切れに吐きながら言った。

 まっピンクの世界が終われば、闇がたちまち襲い掛かってくる。

 闇に包まれたら、気温の下降は著しい。そうなれば、怪我人の体温の維持も難しくなる。

 林の間から、沈む前の最後の太陽の輝きが、光線のように見えた。

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