そこから5キロほど行ったところでその日のキャンプになった。牛も馬も人も疲れきっている。乾燥肉の塊がちらほら入っている飯を食う。それがおわるとみんなハンモックをかけて横たわってしまった。

 映画「ローハイド」のように焚き火をかこんでウイスキーを飲み、焚き火の上でフライビーンズなどをつくり、誰かがギターなどひいて牛追いの歌をうたう、頭の上には月がさわさわ、などという状況には一切ならなかった。牛追いの馬旅というのはそれだけ沢山のエネルギーを消耗するのである。

 翌日は遅い午後までかかって17キロ進み、目的地のイザベラ牧場に到着した。そこは大きな牧場なので牛たちはみんな柵のなかに入っていく。牧場主がピヨンにカップ3分の1ぐらいの南米の強い蒸留酒をふるまってくれる。なかば儀式のようなものだ。

 我々の隊長が、みんなにねぎらいの言葉を言う。ぼくのことも話してくれたそうだ。東洋人のピヨンとしては馬あしらいがいい。いいピヨンになれる、というようなことを言ってくれたらしい。

 そこからはカラ馬(追う牛がいない)なのでみんな好きなように飛ばしていく。ぼくも開放された喜びで突っ走っていったが、途中で鞍の腹革が緩んで鞍ごと回転して壮絶な落馬をした。毒蛇ジャララカの沢山いそうな湿地だった。30分後に助けられたが、左のアバラの一番下の骨を骨折していた。痛かったが、でも全体にえらく楽しい体験だった。

つづく

椎名誠(しいな まこと)

1944年、東京生まれ。作家。『本の雑誌』初代編集長、写真家、映画監督としても活躍。『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞、『アド・バード』で日本SF大賞を受賞。近著の『わしらは怪しい雑魚釣り隊 エピソード3 マグロなんかが釣れちゃった篇』(マガジン・マガジン)、『そらをみてますないてます』(文藝春秋)、『足のカカトをかじるイヌ』(本の雑誌社)、『どーしてこんなにうまいんだあ!』(マキノ出版)、『ガス燈酒場によろしく』(文藝春秋)ほか、著書多数。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」はhttp://www.shiina-tabi-bungakukan.com/

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