第21回 パンタナールで480頭の牛追い旅に出た(2)

 しかしその日は、奇跡的にピラニアの姿は見えず、一番力のある牛を先頭に480頭の牛は無事に全部渡河することができた。

 しかし、自然界は厳しい。群れの中には1歳ぐらいの子牛もいる。必死に泳がなければならない。流されてしまったら最終的にピラニアの餌食だ。

 ぼくはわりあい早いうちに渡ってしまったが、対岸から見ているとそういう子牛が必死にたどり着いてきた。親牛がまわりをガードなどしているわけでもない。何ごとも大きな牛たちと同じようにして自分だけでタタカわなければならないのだ。

 陸に上がると四肢をひろげてやっと息をついている状態だったが、群れから置かれていくのはまた死を意味するから「ハッ」とそれに気づいたように立ち上がり、ヨタヨタしながら群れのあとを追っていくのを目撃した。自然界は本当に厳しい。しかしそうして鍛えられて踏ん張っていく奴が生き残っていくのである。

(撮影:椎名誠)(写真クリックで拡大)