第19回 食べ方が難しい!チュニジア伝統食

 「チュニジアには西欧人や周辺国からの移民も多いけれど、ダヌニは家に伝わってきたものなので代々住んでいるチュニジア人しかつくれないんです」とベスマさんは続ける。「母から聞いた話ですが、16世紀にスペイン人が攻めてきたときに、チュニジアの人びとは家にある貴金属をダヌニの中に隠したそうです。スペイン人たちもまさかその中に財宝があるとは思わず、強奪を免れたと伝わっています」

 チュニジアはこの時期にオスマン帝国の支配を受けていた。帝国の影響は料理の面でも大きく、首都があったトルコでいまも食べられるボレキは、属国の国々にも広く伝わった料理として知られている。まさに、小麦粉の皮に具材を入れて揚げるものだ。ジャガイモにしても中南米から入ってきた食材。卵だけを入れていたブリックはこうした歴史の変化に適合しながら多様化し、チュニジア人になくてはならない料理となっていったのだろう。

 「チュニジアは国民のほとんどがイスラム教徒なのでラマダンの期間は断食をします。日が沈むと食事を摂ることができますが、だいたいいつもスープとブリックを食べるんです。ささっとつくれるし、みんな大好きですからね。そして、ラマダン明けのお祭りではブリックダヌニを食べるんですよ」(モラドさん)

 いまでは街中にブリックの専門店があり、ベスマさんはチュニジアに帰ると家族で食べにいくという。「首都チュニスには『エサフサフ』と『ラグレット』という有名なブリックのお店があるんです。帰国すると必ずどちらかのお店に行きますよ」。どちらも地中海に面した街にあり、チュニジア人はもちろん、観光客も訪れる人気店だそうで「僕も奥さんと結婚する前、一緒にブリックをテイクアウトして海岸で食べましたね。いろいろな話をしながら」とモラドさんも言う。

左は昨夏訪れた人気ブリック店「エサフサフ」の前にて、ベスマさん一家記念の一枚(手前右がベスマさん)。右はエサフサフのブリック。本場のブリックは直径24センチほどの皮を使っていて大きい