幸いなことに、後続のカップルたちがいる。

 私は、彼らが携帯電話を持っていないかと、下りて来たばかりの山を再び登りはじめた。

 彼らがなかなか降りてこないところを見ると、たぶん、この雪質の悪さに手こずっているのだ。

 ずいぶんと山を登ったところで、私はようやく彼らに会うことができた。

 事情を話すと、彼らも困った顔をしていた。

 携帯電話はある。

 が、そもそもここは、電波が届かない辺鄙な場所なのだった。

 確認のために携帯電話の電源を入れてみる。

 電波受信の表示は、1本も立たなかった。

「衛星電話でないとダメな場所だ」と、彼らは言った。

 しかし、衛星電話など、高価過ぎて、個人で持っている人など、ほとんどいない。

 最近は、パーソナルロケータービーコン(PLB)という、雪崩れに巻き込まれた人でもピンポイントで掘り出せるという、携帯式のGPS遭難信号発信装置が安価で購入できるようになった。

 アメリカでは、アウトドアの好きな人への普及が進み、特にアラスカでは、軍の基地が近いために、救難訓練を兼ねて無料で出動してくれるともいう。

 が、誰も持っていないのである。

 私も極地に行くことが多いために、PLBを持つようにと薦められていたが、金銭的理由と日本人である私の個人登録が面倒であるという理由から購入を先延ばしにしていた。

 私はそのことを悔やみながら、彼らと山を降りていく間、どうすべきかと再び考えた。

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