私は、なんのことやらと思った。

 よく事情を聞いてみると、こういうことだった。

 彼は、自分の荷物を橇に乗せて、その橇を愛犬に引かせていたのだ。

 その犬が、先頭を滑って行ったスキージョーの友人の犬と一緒に行ってしまったのだと言う。

 私はそれを聞いて絶句した。

 彼は、この極寒の森の中で、荷物を失い、何1つ持たずに骨折して倒れていたのである。

 もしも後続の人がいなかったら、彼はここで倒れたまま夜を迎え、凍え死んでいただろう。

 私は、自分の荷物から寝袋を取り出して彼の体を包み、持っていたホッカイロの袋を開けて手に握らせた。

 もはやこれは、どう考えたって救助を要請するしかない事態である。

 私は、意を固めて彼に尋ねた。

「携帯電話はどこ?」

 ところが、彼の答えは、「犬が……」だった。

 困ったことに、私も持っていない。

「なんてこと……」

 私は再び頭を抱え込んだ。

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