その後の12時間、双方のにらみ合いが続いた。どちら側にも人質がいたので、当然、交換ということになる。アラバマ号側はしかるべく人質を解放した。ところが海賊側は約束を果たすことを拒否し、フィリップス船長を連れて救命ボートで逃走した。

米海軍の大物登場

 事件の報を聞いた米海軍の対応は素早かった。駆逐艦ベインブリッジとフリゲート艦ハリバートンを派遣し、事件翌日の4月9日早朝にはアラバマ号のもとに到着した。
 武装した18人からなる警備チームがアラバマ号に乗り込み、本来の目的地であるケニアのモンバサ港まで護衛した。乗組員は4月11日土曜日に無事下船した。

 状況は、米国の駆逐艦ベインブリッジと、救命ボートに乗った海賊との闘いとなった。その後の3日間、ベインブリッジは数百メートルの距離を置いて救命ボートを尾行した。海賊からは射程外の位置だ。
 いっぽうの海賊は何とかこの窮地から脱しようとしていた。長さ8.5メートルの小さな救命ボートには覆いがあったが、身を守るには頼りなかった。人質として連れてきたフィリップス船長は、米軍の砲撃で沈められないための唯一の盾だ。
 海賊は衛星電話でベインブリッジの艦長と交渉を開始し、身代金を要求すると同時に、時間稼ぎを図った。ほかの略奪船に乗っている仲間にも連絡し、フィリップス船長をソマリアに連れて行く手助けを頼んだ。そうすれば米軍にとっては厄介な状況になり、海賊は優位に立てる。
 4月10日金曜日、フィリップス船長は勇敢にも救命ボートから脱出を試みたが、失敗に終わった。これをきっかけに救命ボート内の緊張が次第に高まり、土曜日の夜明け直後、海賊の一人がフリゲート艦ハリバートンに向けて発砲した。負傷者はいなかったが、これがこのドラマの転換点となる。

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