そのとき突然、台湾船籍の漁船が姿を現した。この船は2日前、セーシェル諸島周辺で海賊に乗っ取られたはずだ。アラバマ号の乗組員はぞっとした。重武装したソマリアの海賊4人が、漁船から小型モーターボートに乗り移り、猛スピードでこちらに向かってくるのが見えた。
 乗組員たちは海賊に向けて照明弾を発射したが、追い払うことはできなかった。海賊たちはあっという間にアラバマ号に乗り込んできた。このままでは乗っ取られてしまう。
 だが、まさかこの乗組員たちが反撃の態勢を整えていようとは、海賊は思いもしなかった。

海賊vs乗組員

 アラバマ号の乗組員は当時、大がかりな海賊対策訓練を受けたばかりだった。火器の使い方を練習し、反テロ戦術、基本的な安全対策、応急手当その他の命を守る方法を学んだ。さらに、事件前日には対海賊演習も実施していた。
 4人の海賊が小型ボートからアラバマ号に乗り込んでくると、機関長マイク・ペリーと1等機関士マット・フィッシャーが最初に行動を起こした。船の舵を連続して左右に切って大きな波を起こすと、海賊の小型ボートを沈めてしまったのだ。

 ペリー機関長は海賊警報を鳴らし、乗組員14人を機関室の安全なスペースに避難させた。
 機関士たちはこのような場合に備えて防備を強化していた。技術知識を総動員して、まずはブリッジを介さず、甲板下から船を操縦できるようにした。これでペリー機関長はブリッジから離れた場所で主エンジンを制御することができた。操舵装置はフィッシャーが制御した。海賊たちはブリッジに陣取り、フィリップス船長と2人の乗組員を人質にしていたが、船を操作することはできなかった。

ペリー機関長の反撃

 次にペリー機関長は船の全システムの電源を切った。船全体が「真っ暗」になった。海賊は不意を突かれた。
 海賊のリーダー、アブドル・ワリムセは、ほかの乗組員を捕らえて船の支配権を握ろうと、機関室に降りていった。しかし船内は真っ暗で、安全室の外に潜むペリー機関長の姿が見えなかった。ペリー機関長は用意しておいたナイフを手に持っていた。
 ペリー機関長は海賊に飛びかかった。真っ暗な機関室で、激しい追いつ追われつが展開されたのち、ついにペリーは形勢を逆転し、人質を取るつもりだった海賊を人質に取った。

 計画をくじかれた残りの3人の海賊は、これ以上の損失を回避するため、フィリップス船長を人質に取って船を離れようと考えた。だが、彼らの高速ボートは沈んでしまったので、アラバマ号の救命ボートを使うしかない。

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