手痛くフラれた経験は忘れないのに、英単語をすぐに忘れるのはなぜ?

 学生時分、誰しもテスト前になると英単語や歴史の年号を覚えるのに四苦八苦したことだろう。社会人になってからも覚えなければならないことには事欠かず、何か覚えようとする度に、自分の記憶力のなさを恨めしく感じたに違いない。

 しかし、なかなか覚えられないことがある一方で、楽しかった家族旅行の思い出や、好きな異性に手痛くフラれた経験など、特に覚える努力をしたわけでもないのに頭に深く刻まれた記憶があるのも否めぬ事実。覚える事柄によって記憶しやすさに違いがあるのだろうか。

 そこで、『なぜ名前だけがでてこないのか 脳科学者が教える本当に正しい記憶力の鍛え方』(誠文堂新光社)の著者で、名古屋大学環境医学研究所の澤田誠所長にこの疑問を投げかけてみた。澤田所長はこう説明する。

「事柄によって記憶されやすさに違いがあるのは事実です。それには記憶の仕組みが関わっています。私たちが見聞きした情報は、脳の視床を通って大脳皮質に送られ、ここで整理された後、海馬に一時的に蓄えられます。ただし、この情報の蓄積は『短期記憶』と呼ばれており、短時間の記憶でしかありません。そのため、必要な情報は海馬が取捨選択して再び大脳皮質に送られ、ここで『長期記憶』として蓄えられます」

 一般的に我々が記憶と考えているのは長期記憶のことなのだが、海馬は経験した出来事すべてを長期記憶として大脳皮質に蓄えようとするわけではない。日々の暮らしの中で、我々が受け取る情報が膨大な量に及び、すべてを長期記憶として蓄えようとすると大脳皮質の容量をすぐにオーバーしてしまうだろう。

 そこで、海馬は必要な情報だけを選んで長期記憶に留めているのだが、ここに覚える事柄によって異なる記憶されやすさが関わっている。澤田所長がこう続ける。

記憶の輝き(写真クリックで電子版のお試し動画へ)

ラットのニューロンから伸びた神経線維の画像。赤と緑の点は、ほかのニューロンとの結合を示す。新しい記憶ができると新しい点が生まれ、古い点は消える。記憶が形成されると「脳に物理的な変化が生じる」と、米国の南カリフォルニア大学のドン・アーノルドは話す。写真=GARRETT GROSS AND DON ARNOLD, UNIVERSITY OF SOUTHERN CALIFORNIA
電子版のお試し画像はこちら