「グッド、グッド。上手だな。でも、もっとイージーに塗っていいぞ!」
そう言いながらウィルは、貸してみろという感じでぼくのハケを手に取ると、ニスが窓のガラス部分に付いてしまうのも、床板の上に落ちて染みになるのもかまわずに、ささっと、適当に塗っていきました。
丁寧さよりもスピードの方が求められているのかもしれない。
ぼくはそう理解すると、ウィルと同じように、素早くブラシを動かしてみせました。
それを見てウィルは、満足したようにまた「グッド、グッド」といって去っていきました。
思ったよりも雑で良さそうなので、これならすぐに終わらせてしまえるかもしれません。
早めに作業に片を付け、また撮影に戻ろうと思いました。
いよいよあと少しで、全部の木枠を塗り終えようとしたところ、再びウィルがやってきました。
「お、早いな。全部終わったら、裏返して反対側もだ」
そうか、裏側もあったのか……こうなったらそっちも終わらせないと切りが悪い。
気を取り直して、表側をすべて塗り終えると、窓をひっくり返して壁に立てかけ、今度は裏側を塗りはじめました。
やがて、裏側もすべて終えようとしたとき……また、ウィルが様子を見に来て言いました。
「ベリーグッド! 仕事が早いな!」
褒められて嬉しかったのもつかのま、ぼくはウィルの次の言葉に、思わず身構えてしまいました。
「それが終わったら……これを運んでほしいんだ」
ウィルの後ろについていくと、同じ階の別の部屋に、壁だか天井だかに張るための長い板材が、幅2メートル、高さ1メートルぐらいの塊となって積まれていました。
それを全部、上の階へ運んで欲しいようです。
<今日中に終わらせるのは無理かもしれない……>
ウィルは去り際に付け加えました。
「あの窓枠、一晩置いて乾いたら、もう1回塗ってくれ。表と裏。ダブルコーティングだ。その方が長もちするんだ……」