でも、そのときはさまざまなことを試してみる段階で、「これも違う、あれも違う、おかしいな……」と思い悩みながら、ピケッツ湖のほとりからホームステッドの西に広がる森の中まで、あてもなくさまよい続けました。
時間はあっというまに過ぎてゆき、結局、朝の4時半から11時までにシャッターを押すことができたのは、きらめく水滴の3回だけでした。
さすがに疲れきったので、ロッジへいってご飯を作って食べました。
いつもと同じ、米とみそ汁だけの食事ですが、おなかがすいていたおかげで、いつも以上に美味しく感じました。
お茶を飲んで一息入れると、今度はキャッスルへ登って、窓枠のニス塗りの作業に取りかかりました。
昨日、指示された部屋へ行き、お手本通りニスの缶をドライバーであけ、スポンジのハケを手に取ると、端から順に塗っていきます。
格子状の木枠から、ニスがはみ出さないように気を使いながら、丁寧に塗っていきました。
あまりたくさんつけすぎると、余分なニスが流れ、樹液のように下の方でたまってしまいます。
それをもう一度ハケで伸ばし、まんべんなくならすようにして、むらなく塗り直しました。
手の動かし方に慣れてくると、単純作業のなかにもいくつかのコツや改善すべきところがわかってきて、楽しくなってきました。
さらに続けていくと、あまり考えることもなくなり、ただ黙々とハケを上下左右に動かしている自分がいました。
瞑想するかのように無心で、ひたすら同じ動きをくり返すのは、意外にも、とても気持ちのいいものでした。
午前中はずっと、無限の選択肢の中から、すべてを自分で決めなくてはならなかったのですが、今は、目の前にやるべきことが用意されているのです。
しかも、だんだんと塗り方も上手くなり、塗り終えた場所はニスの色で染まっていくので、どれだけ進んだかがひと目で分かります。
その確かな実感が、とても嬉しかったのです。
ひとつの窓全体が終わると、次の窓へ移り、そしてまた次へ。
そんなふうに静かに作業を続けていると、ウィルが様子を見にきました。