第64回 遠ざかる山頂

 朝の4時に起きてから、水を飲んだ以外、何も口にしていません。

 おなかがすくにつれ、ふたたび集中力が高まり、まるで飢えた目で獲物を探す捕食動物のように、被写体をみつけたいという欲求が強くなっていくのを感じました。

 人に限らず、動物というものは、空腹のときの方があらゆる感覚が鋭くなっているとしてもふしぎではありません。

 だとしたら、良い写真を撮る上でも、おなかがすいているということは、大切なことなのかもしれない。

凍った湖面に、不思議な模様をみつけた。どうやらワタリガラスが舞い降りたとき、その翼の形が新雪の上に刻印されたらしい。前日に釣りをした場所の近くだったので、様子を探りにきていたのかもしれない。(写真クリックで拡大)

 午前中はずっと、草や木や岩など、目に入るものを片っ端からカメラのファインダーごしにのぞいてみました。

 が、シャッターを押したいと思うほど、心が動かされるものにはなかなか出会えません。

 困ったあげく、ジム・ブランデンバーグのまねをしてみたらどうだろうと考え、写真集『Chased By The Light』に収められている写真を思い出しながら、被写体を探すことにしました。

 でも、それも上手くいきませんでした。

 たしかこんな写真があったよな……という感じで、似たようなものを見つけてはファインダーをのぞき、いろんな角度から眺めてみるのですが、なにかが違うのです。

 いまにして思えば、自分の心で見つけたのではないものに、感動できないのはあたりまえのことだったのかもしれません。

 頭の中の借り物のイメージを追い求めるのではなく、目の前の現実から、なにかしら心が反応するものを見つけなくてはならなかったのです。

3月8日(土)に世田谷区立中央図書館で、3月19日(水)に日本橋 ギャラリーキッチンKIWIで、大竹英洋さんのトークライブが開催されます。くわしくはこちらのページをご覧ください。