それは、一旦日本に帰って、再び1月にアラスカに戻ってきたときのことだった。

 このミンチュミナに戻って来る前に滞在していたフェアバンクスで、友人たちから「森の中にある露天風呂に行かないか?」と誘われたのだ。

 それはトロバナ温泉という、樹氷の森を抜け、ツンドラの丘を越え、極寒の森を10時間ほども歩かなければならない、過酷な道のりの先にある秘湯である。

 答えはもちろん、「イエス」だ。

 ほとんどの人は、この行程をクロスカントリースキーで行くのだけれど、私はスキーがあまり得意な方ではないので、橇に荷物を括りつけて、腰で引っぱりながら地道に歩いて行くことにした。

 出発地は、フェアバンクスから車で2時間ほど走ったところにある小高い山の頂上辺り。

 標高が高いせいもあって、寒さは尋常ではなく、周りの木々には、どっかりと樹氷や雪がのっかっていて、まるで地表から這い出たモンスターのように佇んでいる。

 森の入り口で出発の準備をしていると、吐く息がすぐさま首元のマフラーに凍りついて、黒いマフラーが真っ白になった。

 まだ暗い朝のうちに出ても、日中の日照時間は4時間ほどしかなく、どう頑張ったって、到着は闇に包まれることになる。

 その覚悟は十分にあるが、できれば日照時間内に距離を稼いでおきたい。

 私はスキーで行かない分、少し焦っていたのだった。

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