第5回 常識破りの研究が受け入れられるステップについて

 パフォーマンス集団・芸能山城組の主宰者、山城祥二氏としても知られる大橋力博士に導かれ、本田さんらが2000年、アメリカの脳・神経科学論文誌で高らかに宣言した「ハイパーソニック・エフェクト」の存在は、様々な意味で先端的な成果だった。それまでの定説をくつがえすという意味では、常識破りですらあった。

 20キロヘルツを超えるような高周波音の刺戟は、人間の耳を通しては聞こえないが、体を通じてなんらかの形で脳の応答を引き起こしているということ。それだけでも大発見だ。

 それに加えて、その「効果」についても示唆に富む現象を見いだした。基幹脳と呼ばれる部分が活発に働き、心地よさを感じると同時に、免疫細胞を活性化し、ストレスホルモンも低下させる。五感で知覚されないものが脳の応答を引き起こすこと自体、驚くべき発見なのに、それが人間の心身の健康にまで大いに関係している可能性を示唆したことは、これまたやはり、超先端的で、常識破りな成果だ。

座ったままでPETの計測が可能な「PET-Hat」。頭の動きに合わせて装置が動くため、拘束感が少なく開放的な新しいPET装置だ。(写真クリックで拡大)

 もちろん、実験にあたっては、音出し担当者は被験者と接触しないうえ、音源はランダムに再生するなどの「二重盲検法」が採用されている。脳波やPETの測定時には、脳波キャップをかぶせたり、同位元素を注入するために、測定者は被験者と接触しなければならないが、音出し担当者と接触せず、どれがどの音源かはわからない。こうした二重盲検法は偽薬効果や観察者の期待といった心理的な影響を取り除いて測定をする医学では当たり前の方法だ。

 さて、研究自体、筋が通っていたとしても、二重にも常識をひっくり返されると、「え? 本当」ということが、研究者の間でも起こったのではないだろうかと想像する。特に、音楽CDをはじめ、デジタル音源の規格作りに関わって来た音響学のあたりでは、「そんなはずがない!」という思いが強かったかもしれない。

 なお、従来の音響学の実験で、20キロヘルツ以上が「聞こえない」ものとして切り捨てられた事情というのは、本田さんらの立場からははっきりしている。

(写真クリックで拡大)

本誌2014年2月号でも脳研究にまつわる特集「先端技術で見えた脳の秘密」を掲載しています。Webでの紹介記事はこちら。フォトギャラリーはこちらです。ぜひあわせてご覧ください。

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