第4回 薬も遺伝子操作も使わない「情報医療」とは

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「本当に効果があるかどうかは、厳密な対照実験が必要なので、今後、入院治療の患者さんに広げていきたいと。フォーマルな薬の治験とかと同じようなレベルの信頼性を見ていく必要があると考えていまして、そういう準備をしているところです」

 なお、ここまでの説明だと、いわゆる「音楽療法」と似ていると思う人もいるかもしれない。高周波音がどれだけ含まれているかにかかわらず、「音」を聞いてよい影響を期待するわけだから。

「それ、まさにいいポイントで、僕らが、音楽ではなくてこういう環境音を使うのは、意味があるんです。音楽療法の場合には、メロディが短調か長調ですとか、そういうものの中にすごいメッセージがあるじゃないですか。それって、人によって反応がばらついて、やっぱりソリッドな統計に乗ってきにくいのかなと思うんです。それに対してこういう森の音って本当にある意味ニュートラルで、ここには短調もなければ長調もない。特にうちの患者さんって気分障害なんで、聴いてもらう音楽の持っている色っていうか、そういうものが余りにも影響するんですね」

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 だから、ガムランでも、チェンバロでも、グルジアのコーラスでもなく、熱帯雨林の環境音。もちろん、熱帯雨林の環境音が、非常に良好な高周波音を含んでいるということが大きいわけだが。

 本田さんが今進めている「情報医療」について充分な証拠(エビデンス)が得られたら、うつ病の治療などだけではなく、予防医学としても大きな意味を持つだろう。町ぐるみで環境音を流す社会実験(仁科エミ・放送大学教授などによる)で、集団を長期間追いかけて様々な病気などの発生状況を追う“コホート研究”をして確かめてほしいくらいだ。長期間にわたる追跡が難しいにしても、今の環境疫学、社会疫学の世界では様々な手法が発展しているので、なにか「研究室の外」での研究のやり方もあるのではないかと期待してしまう。

つづく

本田学(ほんだ まなぶ)

1964年、三重県生まれ。国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第七部 部長。同脳病態統合イメージングセンター副センター長、早稲田大学理工学術院客員教授、東京医科歯科大学連携教授。博士(医学)。1988年、京都大学医学部卒業。95年、京都大学医学研究科博士課程修了。米国国立保健研究所訪問研究員、京都大学医学研究科附属高次脳機能総合研究センター研究員、自然科学研究機構生理学研究所助教授を経て2005年9月から現職。専門は神経科学、脳イメージング、臨床神経生理学。主な研究テーマは、ハイパーソニック・エフェクトを応用した「情報医療」の開発、身体と心の共通制御神経機構の解明、感性脳機能のイメージング、非侵襲脳刺激による機能的治療法の開発など。

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider