サハラ砂漠の華麗なムシたち ヒヨケムシ編(閲覧注意画像アリ!?)

 それこそ、腐海に住む生き物のようなのだとか。残念ながら、ぼくは捕食シーンには出会うことはなかったのでその異様さは分からない。もっとも、頭頂部についている目が、よくよく見ると左右別方向をむいていて、それぞれGoogleカメラみたいな雰囲気でもあり、なにげにハイテクな雰囲気を感じてしまっていた。腐海の生物とはまた違う方向性ではあるが、異色なのである。

目がぁ! 目がぁぁぁ!!(写真クリックで拡大)

 それに加えて、ぼくがなにか変な模様と質感だなあと思って撮っておいた接写写真が後で、大きな物議を醸すことになる。

 腹部の写真を拡大すると……これなに? というものがはっきりと映し出されていた。

コォォォォォ…(写真クリックで拡大)

「これは謎すぎますね」と前野さん。「こんなにパンパンになってるのは見たことないし、このボツボツしたのは、卵みたいに見えるし、いったいなんなんッスか!」

 たしかに、そのヒヨケムシの腹部はパンパンで、変な模様に見えたのは、小さな卵がぎっしりつまっているかのような構造が透けて見えていのだ。キモい! しかし、興味深い!

 ネットで調べると「ヒヨケムシは体内である程度子どもを大きくする」みたいな記述があるが、本当かどうか確証はない。前野さんもヒヨケムシの専門家ではないので、この腹のブツブツが本当になになのかははっきりとは分からない。しかし、あまりに目をキラキラ輝かせ「すげー」を連発するものだから、聞いてみた。

「ヒヨケムシを研究対象にするのは、将来的にはありえないんですか」と。

「超やりたいッスね」前野さんは即答した。「砂漠の昆虫学はものすごく面白くて、みんなそれぞれ、過酷な環境を生きのびるための工夫をいっぱいしてるので、どれをやっても面白いと思います。正直、サバクトビバッタの研究をしていて一番困るのは他の虫からの誘惑ッス」

 今後、もしも、前野さんがサハラ砂漠で、ファーブル先生よろしくあらゆるムシに研究の対象を広げたら……想像すると楽しい。今にもまして、「すげー、すげー」が砂漠に響き渡ることになるだろう。そして、今そこで、これを読んで「すげー」を共有しくれているあなた。特に若い人。こんな魅惑的、蠱惑的なムシたちを、前野さんに全部、やられちゃっていいの? と煽ってみたくもなるのだった。

(写真クリックで拡大)

おわり

前野ウルド浩太郎(まえの うるど こうたろう)

1980年、秋田県生まれ。京都大学白眉センター特定助教。博士(農学)。弘前大学農学生命科学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。2008年、日本学術振興会特別研究員を経て、2011年、日本学術振興会海外特別研究員としてモーリタニア国立サバクトビバッタ研究所に赴任。同年、日本応用動物昆虫学会奨励賞、井上科学振興財団奨励賞受賞。2012年、山下太郎学術研究奨励賞受賞。2013年、日本-国際農業研究協議グループ(CGIAR)フェローとして再赴任。著書に『孤独なバッタが群れるとき-サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会、2012年)。ウエブサイト「砂漠のリアルムシキング」ツイッターのアカウント@otokomaeno175

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider