イタリア・フィレンツェが世界に誇る優美なドーム。ルネサンスの奇跡とも言うべき直径55メートルの巨大ドームを造ったのは、短気でさえない男だった。

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ルネサンスの奇跡 フィレンツェ「花の大聖堂」

イタリア・フィレンツェが世界に誇る優美なドーム。ルネサンスの奇跡とも言うべき直径55メートルの巨大ドームを造ったのは、短気でさえない男だった。

文=トム・ミューラー/写真=デイブ・ヨダー

 フィレンツェにあるサンタ・マリア・デル・フィオーレ(花の聖母)大聖堂のドームは、石造ドームとしては現在も世界で最も大きい。天才フィリッポ・ブルネレスキが革新的な工法で、1436年に完成させた最高傑作だ。だが、あまりに壮大な構想を危ぶむ声も当初はあり、その完成までにはライバル建築家との確執や壮絶な主導権争いといった人間模様が繰り広げられた。

 大聖堂の屋根にぽっかり開いたまま残されていた、巨大な穴をどうするか。1418年、フィレンツェ市の有力者たちはついに何十年も目をそらしてきた大問題の解決に乗り出した。当時としては世界最大となるドーム(クーポラ)の建設を決定したのだ。


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 金融や交易で富を蓄え、欧州有数の経済と文化の中心地となったフィレンツェの威信を示すため、この大聖堂の建設が始まったのは1296年のことだった。だが、それから何十年たっても、大聖堂の主祭壇があるべき場所には屋根が造られず、冬の雨と夏の陽光が降り注いでいた。これほどに巨大なドームを建造できる案を、誰も持ち合わせていなかったのだ。

設計コンペで募った巨大ドームの建設案

 1418年、市の有力者たちは設計コンペを実施し、これらの問題を解決する設計案を募集することにした。優勝者にはフローリン金貨200枚と、永遠の名誉を手にする機会が用意された。「ドゥオーモ」の呼び名で親しまれるこの大聖堂は、フィレンツェ人の発明の才を体現し、ルネサンスの幕開けを告げるものとなった。

 歴史書の記述によれば、コンペに寄せられた設計案は陳腐なものが多かったという。ドームの設計に名乗りを上げたある建築家は、大聖堂の中心に巨大な柱を立ててドームを支える案を出したという。別の建築家はドームの重量を最小限に抑えるため、「スポンジ石」(多孔質の火山岩のことらしい)で建設することを提案した。

 現時点ではっきりしているのは、提案者の一人、フィリッポ・ブルネレスキという金細工師が、一つではなく二つのドームを建てると大見得を切ってみせたことだ。
 短気で小柄な、さえない風貌のこの男は、外側のドームの内側にもう一つのドームを造るという二重構造を提案し、手間も費用もかかる木製の枠を使わずに建設すると約束した。

 ただし、ブルネレスキはライバルにアイデアを盗まれるのを恐れて、具体的な方法の説明は拒んだ。そのかたくなな姿勢は大聖堂造営局の委員たちとの激しい口論へと発展する。彼らは2度にわたりブルネレスキを議論の場からつまみ出し、「愚か者!大口をたたくな」と、ののしった。

 それでも、委員たちはブルネレスキの謎に満ちたデザインに想像力をかき立てられた。もしかすると、この「愚か者の大口たたき」が天才だということを、すでに知っていたのかもしれない。

※ナショナル ジオグラフィック2014年2月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 フィレンツェに旅行して、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂を目にしない人はいないでしょう。人口40万人足らずの街が世界に誇る花の大聖堂です。このルネサンスの最高傑作を建築したのは、天才フィリッポ・ブルネレスキ。ドーンと空にそびえる巨大なドームは美しいだけでなく、その構造も突出して優れた建造物です。図解に示されるドームの内部構造は必見です。
 天才の仕事には見とれるばかりですが、当時、先輩で著名な建築家ロレンツォ・ギベルティとの間にし烈な主導権争いがあったことはあまり知られていません。記事は、二人の男の情念と確執を描きます。
 お互いを貶めるその陰湿さたるや、いやもうホントに見ていられません。しかし、そんな男たちの情念の果てに、後世に残るあの美しい大聖堂が生まれるのだから不思議です。傑作とは案外、そんなふうに出来上がるのかもしれません。その瞬間に立ち会っているような気持ちにさせてくれる、見応えのある特集です。(編集N.O)

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