ゴールドラッシュが再来し、好景気に沸くカナダのユーコン準州。鉱山開発の波が、北米大陸で最後に残る原生の大自然を脅かしている。

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ゴールドラッシュ再来 揺れるユーコン

ゴールドラッシュが再来し、好景気に沸くカナダのユーコン準州。鉱山開発の波が、北米大陸で最後に残る原生の大自然を脅かしている。

文=トム・クラインズ/写真=ポール・ニックレン

 カナダ西部と米国アラスカ州の間に打ち込まれた、巨大な三角形のくさびのようなユーコン準州は、“北のセレンゲティ”とも呼ばれる。カリブーの大群が季節ごとに移動し、北海道に匹敵する面積のピール川流域に原生の自然が残る、野生生物の楽園なのだ。
 だが一方でユーコンは、金、亜鉛、銅といった鉱物資源の宝庫でもある。

 ユーコンの豊かな鉱物資源は、ここへ来て再び、採鉱企業の注目を浴びている。2011年には、鉱業権の申し立てが11万5000件以上に急増した。その背景には、金をはじめとする鉱物の取引価格の上昇などがある。

「彼らはユーコン全体を食い物にしてしまいます」と語るのはトリッシュ・ヒューム。カナダ先住民による自治政府の一つ、シャンペン・アンド・アシヒック・ファーストネーションズの一員だ。彼女自身も鉱業関連の地図製作を仕事にしている。
 だが、鉱山開発が行き過ぎると、環境や文化に与える損失が利益を上回ってしまう。ユーコンはその曲がり角に差しかかりつつあると、ヒュームは言う。

「外からやって来て鉱物資源を奪っていく人々は、私たちが狩る動物、私たちが食べる魚、私たちが暮らす大地がどうなろうと、お構いなしです。いっときの好景気が去った後、わずかな地元民だけで破壊された環境を元通りにできるはずがないのに」

北米で最大級の鉄鉱床が眠る土地

 この地では1870年代から鉱脈探しの試掘が始まっていた。だが、ユーコン川とクロンダイク川の合流地点に近い小川で、3人の金鉱探しが実際に金を見つけたのは1896年のことだ。金鉱脈発見のニュースを人々が知ったのはさらに11カ月後、3人がずっしりと重い金を携えて米国のシアトルとサンフランシスコの港に上陸した時だった。数日の間に、世界中の新聞に大きな見出しが躍った――「金、金、金! 黄金色の宝の山だ!」

 こうして現代史に残る“集団ヒステリー”とも言うべき大狂乱が幕を開けた。蒸気船の運営会社が一獲千金の夢をあおり、切符売り場に殺到した何万人もの人々が、現地の様子もろくに知らないまま奥地へと旅立った。

 終わりは始まり以上に急だった。ユーコン準州が制定され、ドーソンが準州都になって1年後の1899年、米国アラスカ州西部のノームで有望な金鉱が見つかったという知らせが舞い込み、多くの砂金掘りがユーコン川を去ったのだ。壊血病に苦しみ、夢破れた後の過酷な現実に打ちのめされた居残り組の一部は、家財道具を売り払うと故郷へ引き揚げた。

 その後、1961年、スネーク川の支流を数キロさかのぼった所で北米最大級の鉄鉱床、クレスト・デポジットが発見された。その時は試掘が行われただけで、本格的な開発には至らなかった。しかしその後、アジアの新興諸国で鉄鋼の需要が増したことで再び注目が集まり、沿岸部まで鉄道を敷設する話が持ち上がった。

 今、一獲千金を狙う人々が押し寄せ、ユーコンは1890年代以来の好景気に沸いている。ゴールドラッシュの再来なのだ。

※ナショナル ジオグラフィック2014年2月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 日本より広い面積に、たった約3万7000人しか住んでいないというユーコン準州。でもその美しい自然にひかれて移り住む若者やアーティストも少なくないそうです。記事に登場するスコット・フレミングという名の大工もそんな一人でした。彼は「厳しくとも充実した暮らし」を求めてユーコンに移住し、金鉱探しを始めますが、あと一歩で大金持ちになれるというところで降りてしまいます。その理由を語った彼の言葉が印象でした。(編集M.N)

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