「基本的には、最初は教えられることばかり多くて。でも、彼らが、経験上知ってることに、自分が付け加えることもあるんです。例えば彼らは孤独相はずっと孤独相だっていうふうに信じてるんです。それで、自分が実験室で研究した結果では、その孤独相でも混み合うと大きな卵を産んで群生相が出てくるんだぞって言うと、いや、そんなわけはない、と最初はなるわけです。でも、実験結果とか示すと、「ああ、マジか、そんなの知らないぞ、野外でもありえるな。浩太郎、もっと教えてくれ」みたいなかんじになっていくんです」

 孤独相のメス成虫が、混み合いを経験すると、群生相になる卵を産むことを明らかにしたのは、前野さんの実験室での大きな成果だ。これを知っているか知っていないかでは、警戒すべき範囲が違ってくる。

 そして、さらに将来に向けて、より防除に有効な研究はできるだろうか。前野さん自身、サバクトビバッタの相変異の秘密を解き明かしたくて、実験室で、また、フィールドで研究を続けているわけだが、現地を知れば知るほど、「防除に役立つ研究を」という思いは高まっている。

「夜、木や草に潜むのは、もう分かっているんですね。そこに薬剤を撒いたらどうなるかですとか、ババ所長に1回実験やってみたいと言っているんです。今は、昼間、動いてるやつに撒いているわけですけど、夜は動かないし逃げないし。防除をやっている人たちは、木が邪魔をして薬剤が入り込まないと言っているんですけど、丹念にやればずっと効率的かもしれない、と」

 その上で、前野さんがフィールドで、これから目指すこと。

 実は、前野さんは、来る4月から京都大学の白眉センターの助教の立場で、5年間、学生に指導する義務なしにひたすら研究することが許される。バッタが出る時期はモーリタニアにいて、シーズンオフには京都でデータをまとめ論文を書き……という学究に専念できる時期がとれそうだ。これまで論文にまとめていなかった成果を次々と発表してほしいし、また、フィールドではさらなる研究を進めて欲しい。

 ところが、意外なことに前野さんから、最初に出てきた言葉はこんなふうだった。

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