「自分の本には、調査の1日目のことしか書かなかったんですが、あの時の調査旅行には続きがありました。次の日は孤独相のエリアからうって変わって、群生相の幼虫のマーチング・バンド、非常に大量のバッタに遭遇したんです。植物の上で休んでいる彼らに向かって接近すると、バッタがその植物の中に逃げ込むパターンと、その植物を見切って外に脱出して、跳ねて逃げていくパターンがあることに気づきました。何回か突撃を繰り返しているうちに、植物が大きいと安心して留まるけれど、シェルターがしょぼいとすぐに見限って逃げる傾向がみえてきました。その日帰る予定だったんですけども、ここに残ってデータとりたいから、ちょっと待ってくれと研究所のスタッフに言って、そこで4日留まって、毎日データとって、これも論文になりました」

 論文のタイトルは「サバクトビバッタ群生相幼虫の、植物のサイズに依存的な逃避行動」といったもので、昆虫の行動学の専門誌に発表された。

 最初の調査旅行で、いきなり論文を2報! なんと欲張りで、また、充実したフィールドワークであることか! 別に「論文のための論文」ではなく、現場で感じた疑問を、そのまま検証すべき仮説として組み直し、仮説が正しいか正しくないか確かめる方法を考えて実践する。まさに、原初的なフィールドワークの仕事なのだ。

 ふと不思議に思ったのは、前野さんが、それ以前には、アカデミックな意味でのフィールドでの訓練をそれほど受けていないことだ。それなのに、ごく自然に、フィールドワークをして、きちんと論文に出来てしまうあたり、どうなのだろうか。直接、質問してみた。

「ぶっつけ本番がサハラ砂漠ですから、自分でも、最初びびっていたんですけども、やっぱり現地でバッタを見ると、すごいいろんな疑問がどんどんわいてくるんです。疑問にこたえるために、どんな実験をして、どんなデータをとればいいかという、お決まりパターンみたいなのがあります。いわゆる研究のお約束事みたいなものですね。自分はまだまだ未熟ですけども、優秀な先生たちに教えてもらったおかげでなんとかなっているんだと思います。特に砂漠に来ると、ネットもつながらないし、文献とか何もないので自分で全部その場でやらなければなりません」

ゲストハウスの自室で、この取材中に捕まえた個体の体色が分かるようにスキャナーで記録をとる前野さん。ちなみにバッタはまだ生きていて、氷で体温を下げて動けなくしている。(写真クリックで拡大)

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