第4回 バッタ博士、モーリタニアへ旅立つ

 前野さんが、サハラ砂漠での最初のフィールドで、いきなり衝撃に見舞われた様子は、著書『孤独なバッタが群れるとき』にも描かれている。実験室で飼育しているものではみられない行動を、あちこちで発見し、うわっうわっうわっとなりつつも、研究者魂を発揮し、調査初日の夜から、後に論文として結実する調査を開始する。

 例えば──、

 孤独相の野生のサバクトビバッタが、昼間はあちこちに散らばっているのに、夜、木に宿るのを見いだした。これまでにも、砂漠にはえている何種類かの草木をシェルター(避難所、安心して休める場所、といった意味)にするという報告はあったし、前野さんの目には、棘のある灌木に多くの個体がついているように見えた。そこで、前野さんは、彼らがどのようなシェルターを好むのかを調べようと思い立った。

 フィールドで疑問を感じたら、その場で、そく観察や実験開始! というのは、ファーブルの流儀である。ある昆虫やその行動に出会うのは1回限りかもしれない。それを逃さずに、きちんと観察するのは、フィールドワーカーの基本! なのだから。

「まるでファーブルみたい」と自分に興奮しつつ、夜22時から午前2時までかかって、ランダムに選んだ区画の中の木々や草に宿るバッタを調べて回った。結果、バッタが棘のある灌木を好み、それも、灌木の大きさによって、集合する度合いが違うことがはっきり示された。大きな宿り木の方が好まれるのである。さらに後日別の場所でも同じ傾向があることも確認し、論文執筆に踏み切った。1日目にその場で疑問に思ったことを(前野さんに言わせれば「疑問の現地調達」)、その場で研究計画を立て、きちんと分析し、論文にする。フィールドの生物学者としてデビューした当日にここまでの成果を出すのだから、ファーブルの後継者を目指す者として、相当気合いが入っていたといえる。

 さらに調査は続く。