第4回 バッタ博士、モーリタニアへ旅立つ

ババ所長の本名は「モハメッド・アブダライ・ウルド・ババ」。前野さんの熱意に感激し、「ウルド」のミドルネームを分け与えた人物でもある。(写真クリックで拡大)

「ババ所長はいつもてんてこ舞いで、くたびれていてもバッタと闘うための準備を一生懸命やっているんです。それなのに、私のこともいろいろ励ましてくれるんですよ。日本のバッタ研究者がアフリカの現地に来て、腰を据えて研究をするのは初めてだそうです。それどころか、『見てみろ、浩太郎、今、先進国から誰も研究者が来てないぞ、おまえだけだぞ』って。アフリカの人たちは浩太郎の研究面での活躍に期待しているんだとまで言ってもらえたんです」

 実際に、「先進国」のサバクトビバッタの研究者で、アフリカの現地を拠点にしているのは、前野さんだけなのだそうだ。ただでさえ研究設備が整わず不便な土地だ。それに加えて、旧宗主国であるフランスをはじめヨーロッパ系の研究者はテロの対象になりやすい(ぼくの訪問時、フランス大使館はフランス人が首都のヌアクショットから出ないように勧告していた)などの、様々な要因もある。一方、アフリカ現地の研究者は、外国の大学で学位を取って研究のノウハウを身につけても、母国ではすぐに人の上に立って指揮をする立場になってしまう。前野さんは、ぽっかり空いた昆虫学のエアポケットに吸い込まれ、唯一無二の研究者として、砂漠の国に降り立ったのだった。

 では、実際に現地でみるライブなサバクトビバッタはどうだったろう。

「衝撃的でした。今まで見ていたサバクトビバッタとは一体何だったのかっていうくらい。考えてみたら、実験室の31℃一定に管理されている環境じゃないんです。温度にしても、昼間40℃以上にあがって夜は20℃に下がりますし、珍しく雨が降って日中でも35℃とかいう日もあります。その暑さ、風、いろいろな環境を感じて、適応した行動をするわけですよね。そういう素顔のバッタを見られたので、それだけでもう大収穫というか、驚きでした」