ウィルが去った後、ぼくは自分の荷物を取りにロッジの前まで戻りました。

 そして、荷物をつめたリュックを背負うと、その足でボートハウスまで運びました。

 重いリュックを背負ったまま、水に浮いたプラットフォームの上に乗ると、小屋全体がまた小刻みに揺れて、その波紋が湖面にゆっくりと広がっていきました。

 ドアノブを回して扉を押し、室内に入ると、リュックを床に降ろしました。

<これから1週間、ここがぼくの部屋……>

厳しく冷え込んだ朝。森のほとりで、カナダオオヤマネコが気持ち良さそうにひなたぼっこをしていた。野生の深淵に生きるヤマネコと言えど、その寝姿はやはりネコのそれである。(写真クリックで拡大)

 床は、美しい木のフローリング。壁も天井も木の板が張り巡らされていて、雨風を防ぐのに十分厚みのありそうな、立派な小屋でした。

 たくさん設けられた窓からは、水辺の美しい風景が広がっています。

 カヤックで旅に出てからというもの、ナイロン布1枚のテントのなかで、ずっと夜を明かしてきました。

 それが、今日からは、しっかりとした木材の壁で囲まれた空間で眠ることができるのです。

 もちろん、トムが1泊だけ使わせてくれたノースカントリー・ロッジのバンガローも、快適な空間でした。

 けれどあのときは、翌朝のジムとのアポイントにそわそわしていて、荷物もほとんどバラすことなく、あまり落ち着いて過ごすことはできませんでした。

 だから、自分の部屋と呼べるようなものを手に入れたのは、ずいぶん久しぶりのことのような気がしたのです。

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る