第74話 足指の無いアーセルの必死の踏ん張り

 けれど、私の思いも同じだった。

 付けられた道を走る爽快感よりも、犬たちと困難を乗り越えて心を一つにしていきたい。

 トーニャは言う。

「犬たちにこんなことをさせて酷いと言う人もいるけれど……、一緒に困難を乗り越えることを不幸だと思っている犬なんて1匹もいないと思うわ」

 確かに橇犬たちは、橇を引くのが好きだし、走りたくてうずうずしていて、いつだって、「ハイク!」という言葉を待っている。

 私の横で座り込んで荒い息をはいている犬たちを見ても、誰もここから逃げ出したいと思っているような犬たちはいない。

 それどころか、息が整ったらまたチャレンジしようと思っている顔ばかりだ。

 トーニャは、犬たちの頭を撫でながら、
「とにかく、犬たちを諦めモードにさせてはダメ。一緒に乗り越える気持ちを一つにすることが大切よ。最後まで信じること」と言うと、すぐにでもまた挑戦するようにと言った。

 十分な休憩をとると、私は先ほどよりも助走を長く取ったところまで橇を下げた。

 犬たちを整列させて、またその斜面を見据えた。

 犬たちも、再び挑戦することを察して、高揚して雄叫びをあげている。

 私は、ふーっと大きく息をつくと、「ハイク!」と大きな声をあげた。

「待ってました!」とばかりに犬たちがまっすぐに突進していく。