第74話 足指の無いアーセルの必死の踏ん張り

 トーニャが言うように、斜度がキツクなる所からは、みんなバラバラにもがいているだけで、力が分散されていたような気がする。

 これを一点集中させれば、できるような気もしてきた。

 私はトーニャに尋ねた。

「ユーコンクエストなどの犬橇レースも、こんなクライミングのような急斜面があるの?」

 小さい頃から両親と共に大きな犬橇レースの大会に携わり、自身もユーコンクエストに出場し完走したトーニャは、ふふふと笑って言った。

「無いわよ。犬橇レースのコースには、こんな場所はないわ。レースはすでにコースが作られてあるし、比較的安全に走ることができるようになっているのよ」

「そうか……、そうだよね……、レースや大会は、安全が第一だもんね……」

 私は、ふーっと深く息を吐いていると、トーニャは再び微笑みながら言った。

「犬橇レースはね、付けられたコースをいかに速く走るかを競う競技なのよ。でも今、私たちが挑戦しているのは、犬橇の原点のようなもの……」

「原点?」

「そう、原点」

「そもそも犬橇は、速さを競うためのものではないでしょう?」

「うん」

「犬橇は、パイオニアたちの移動手段だったのだから、道なき道を切り開いて、越えなければならない障害物をぜがひでも越えなければならなかったのよ」

「そうだね……、昔は最初から道が付けられたところを走っていたわけじゃないもんね……」

 そう言いながら私は思った。

 今のトーニャは、障害物を乗り越えながら森の中を移動してきた開拓時代のような犬橇をしたいと思っているのだと。

 それは、ほとんど冒険なのだ。