第3回 バッタ博士、サバクトビバッタと出会う

「孤独相で小さい卵を産むメスを実験で使った後で、1つのケージにまとめておいて、そのうち解剖しようと何となく飼育していたんです。そうしたら、そいつらが今度大きい卵を産み始めたんですよ。これまで1匹ずつでいたのに、急に混み合うことによって、すぐ卵のサイズを変えて、群生相の大きい卵を産み始める現象に気づいたんです」

 ひとつめの「卵黄を抜き取って卵の大きさを小さくする」実験が、若さゆえの「ノリ」だったとしたら、こちらは、多くの実験、観察を同時進行し、多忙だったがゆえに偶然知り得たある意味で「努力の賜物」だ。

「これ、とても驚くべきことで、他の昆虫では混み合いに反応して卵のサイズを即座に変化させることは知られていなかったんです。田中先生もびっくりして、緻密な実験を計画して調べました」

 サバクトビバッタのメス成虫は4日間隔で卵を産む。砂の中に尻尾を差し込むようにして、一度に50から100個ほどまとめて産卵する。その後、腹の中で4日間、卵を大きくさせてまた産むという周期を繰り返す。では、いつ混み合いを感じると、卵の大きさが変わるのか。そもそも「混み合い」と言っても、ぶつかりあい、匂い、視覚など様々な要素のどれが効いているのか、解明すべきことはたくさんある。

「バッタの体の表面をマニキュアでコーティングして他のバッタが直接ぶつからないようにしてみたり、目を黒く塗って視覚を遮ってみたり、いろいろやりました……その結果、ぶつかり合い、つまり他個体とぶつかるのが一番重要だと分かりました。それも触角でぶつかり合いを感じていました。さらに厳密に、感受期っていうんですけど、いつ、どれくらいの長さで混み合いを感じると卵を変化させるのかも特定出来ました。卵を産む、前後の2日間、つまり、計4日なんです。卵のサイズをS、M、Lサイズとすると、その4日間フルで混み合うとLサイズ、2日間だけだとMサイズ、一切混み合わないとSサイズっていうふうに」

 さらに詳しく伺うと、サバクトビバッタの卵を製造する卵巣小管という器官では、産卵目前のもの、次回産卵分、次々回産卵分などの卵が、成長するソーセージのように連結しており、そのうち一番成長して産卵を目前にしたものはもう混み合いの影響を受けない、そうだ。次回のものが感受期であり、この時期に4日間の混み合いを経験すると、卵サイズがLになる、という。産卵直前にはもう卵は「完成」しているのだろうから、それ以前に感受期があるというのは、理に適っている。ちょっとヤヤコシイが。

 そして、その探究の中での、前野さんがたどりついた仮説とは──