成虫が飛んで長距離移動するのは、「マイグレーション」という。地面をマーチングしているのではなく、飛翔して「渡り」をする。(鳥などの場合「マイグレーション=渡り」は、行って帰ってくる行動をさすが、昆虫の場合は一方向への長距離移動というニュアンスが強いそうだ。念のため)。そして、成虫が群れをなして飛ぶ状態のことは「スウォーム」だ。さいわい、ぼくは「スウォームのマイグレーション」を見ることはなかったが、サブサハラや中東の国々は、常にその脅威に怯えなければならないのだ。

サバクトビバッタのスウォーム。主に18秒以降に映っている。(動画提供:前野ウルド浩太郎)

 日本のトノサマバッタと近縁で、トノサマバッタ同様、群生相となると人々に大きな被害をもたらす。そのような点で、我々と近しいところもあるサバクトビバッタだが、やはりその野生のフィールドはアフリカや中東の砂漠であり、日本の環境とはまったく違う。距離的にも非常に遠い。前野さんの存在で、一気に、この昆虫の存在と脅威が、我々の目の前にくっきりと現れたのである。

(写真クリックで拡大)

つづく

前野ウルド浩太郎(まえの うるど こうたろう)

1980年、秋田県生まれ。京都大学白眉センター特定助教。博士(農学)。弘前大学農学生命科学部卒。神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。2008年、日本学術振興会特別研究員を経て、2011年、日本学術振興会海外特別研究員としてモーリタニア国立サバクトビバッタ研究所に赴任。同年、日本応用動物昆虫学会奨励賞、井上科学振興財団奨励賞受賞。2012年、山下太郎学術研究奨励賞受賞。2013年、日本-国際農業研究協議グループ(CGIAR)フェローとして再赴任。著書に『孤独なバッタが群れるとき-サバクトビバッタの相変異と大発生』(東海大学出版会、2012年)。ウエブサイト「砂漠のリアルムシキング」ツイッターのアカウント@otokomaeno175

川端裕人(かわばた ひろと)

1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、感染症制圧の10日間を描いた小説『エピデミック』(角川文庫)、数学史上最大の難問に挑む少年少女を描いたファンタジー『算数宇宙の冒険・アリスメトリック!』(実業之日本社文庫)など。ノンフィクションに、自身の体験を元にした『PTA再活用論 ──悩ましき現実を超えて』(中公新書クラレ)、アメリカの動物園をめぐる『動物園にできること』(文春文庫)などがある。サッカー小説『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)はNHKでアニメ化され、「銀河へキックオフ」として放送された。近著は、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる、壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社)(『雲の王』特設サイトはこちら)、中学生になったリョウが世界を飛び回りつつ成長する姿を描いた切なくもきらめく青春物語『リョウ&ナオ』(光村図書出版)、本連載の「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)など。
ブログ「リヴァイアさん、日々のわざ」。ツイッターアカウント@Rsider

この連載の前回の
記事を見る

この連載の次の
記事を見る