第73話 登れ! 雪崩れる斜面を泳いでも!

 橇のハンドルをぎゅっと握り締めて、私はその先を見据えた。

 目の前に立ちはだかるのは、ほとんど壁のような雪の斜面である。

 私の身長を優に超えているし、橇犬たちにしても数倍の高さだ。

 自分1人ならば、このくらいの斜度の雪山など、朝メシ前のお茶の子さいさい、ピースオブケーキである。

 なんと言っても私は雪国育ちで、子供の頃の冬の遊び場は、山のように積もった雪山だったし、スキーをするにも、まずはスキーを肩に担いで斜面を自分の足で登ることからはじまる。

 今ではすっかり、その足腰の強さも鈍ってしまってはいるけれど、まだまだ、まだまだ自信がある。

 確かに犬たちを率いて登るとなるとワケが違うし、登りながら橇を押し上げなければならないので、容易ではないのは分かっている。

 もしも本当の旅だったら、荷を満載してかなりの重さがあるが、今回は橇の中が空っぽで、言わば竹で組まれた昔の乳母車のように軽い。

 とは言うものの、もしも途中で力尽きて、橇を支えられなくなったとしたら、橇は滑り落ちてしまうし、繋がれている犬たちが引きずり落とされてしまうだろう。

 それにマッシャーが下敷きになってしまう事故にもなりかねない。

 私は、トーニャの登り切る様子を見て、けっして簡単なことではないなと悟った。