――どういうことでしょう。
2007年にエベレストに登頂したときです。同じ隊ではないですが、ほぼ同時に登頂を果たした日本人登山家が、下山開始直後にうずくまって動けなくなってしまいました。
彼は「先に行け」というのだけれど、立ち去るわけにもいかない。でも、その場の選択肢は2つしかない。見捨てるか、とどまって死ぬか。あの標高では、助けるという選択肢はありえないんです。
結局、彼はその場で息を引き取り、僕はやむなく彼を残して下山しました。つまり、僕が「生きる」という選択をした瞬間に「仲間を置き去りにする」という覚悟をしなければならない。
――厳しいですね。
僕にそういう経験がなければ、戦没者の遺骨収集はなどしていなかったと思います。 遺骨収集を始めた理由のひとつには、子供のころから祖父に聞かされていた戦場の話があります。
祖父は、ビルマ(ミャンマー)のインパール作戦に従軍した参謀の一人で、自身は捕虜になって生き延びましたが、戦地に残した多くの兵士が戦死しました。