しかし、実際に直面した「死」は、それよりはるかに生々しく、むごいものです。命をかけるのがかっこいいなんて、とんでもない思い違いだと、そのときに思いました。

――山で、ご自身が「死」に直面したときは、どう思いましたか。

 人間も動物ですから、本能的に生きようとするのだと思います。

写真集にあった、雪崩から這い出たあとも、気がつくと、自分の体や顔のあちこちを触っているんですよ、生きていることを確認したくて。それから「生きたい」という「生」への執着心がワッと湧き出してくる。

 一時期、子供の自殺が多発したことがありましたね。今は、中高年の自殺も多い。僕はあれ、「死」に対するリアリティーがないからじゃないかと思うんですよ。

 「死」は、けっしてきれいなものじゃない。残酷で、強烈に恐ろしい。そのリアリティーがあれば、人間はそうそう自分から死ねるものではないと僕は思います。

 それから、生きることにも、それなりの覚悟がいるものですよ。

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