その姿を見て、懐かしく感じました。僕にもそんな時代があったなと。
で、もう一度やってみようかと思って、カメラを持ってヒマラヤへ行きました。すると、そこに今まで僕が見たこともなかったヒマラヤがあったんです。すごい衝撃を受けました。

――もう50回以上もヒマラヤへ行っている野口さんに、まだ見ぬヒマラヤがあったのですか。

 見ているようで、実はヒマラヤの自然をちゃんと見てはいなかったんですよ、僕は。

 登山の目的は頂上へ登ること。だから、そこでの行動は、A点からB点への移動することだけなんです。できるだけ早く出発して、できるだけ早くキャンプ地に着いて、あとは体を横たえて休むだけ。山小屋やテントの外に出て、空を眺めるなんてことはないんですよ、ものすごく寒いから。

 ところが、写真を撮るとなると、外でじっと景色を眺めて、シャッターチャンスを待たなければならない。ときには何時間もね。そういう時間は、登山家としての僕にはありえなかったわけです。

ネパール・ヒマラヤ。もやの中にうっすら浮かび上がる山の頂(撮影=野口健)(クリックで拡大)

この連載の次の
記事を見る