動けない“寄生樹”ヤドリギがほかの木にとりつく驚きの戦略

 大地に根を張り、養分を吸収しつつ、太陽からの光を浴びて育つ植物。種が発芽してからは自らの力では動くことはないが、同じ場所で種を発芽させていては、分布を拡大させることはできない。そのため植物たちはそれぞれに種を拡散させるための技を身に付けてきた。

 例えば、乾燥地に生息するオカヒジキ属のタンブル・ウィードは、直訳すると「回転草」との名前から察せられるように回転しながら種をまき散らす。晩秋になって種が成熟すると、根本から折れて、風にあおられ転がっていくうちに種を落とすことで、分布を拡大させている。

カリフォルニア州ランカスター郊外の水路に、数百個の回転草が押し寄せる。金網のフェンスも、この怪物を止めることはできない。写真=Diane Cook and Len Jenshel
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 タンブル・ウィードが風に吹かれて種を拡散させるのに対して、海岸の湿地帯に分布するマングローブ植物の多くは海流を利用している。これらの種は細長く、干潮時に落下すると湿地に刺さって発芽するのだが、海水に浮くこともできため、満潮時に落下すると海流に乗って他の地域に拡散していく。

 風や海流といった自然に生じる物理的な動きに頼って種子を拡散させるだけでなく、動き回ることができる昆虫や野鳥に種子を托する植物もいる。といっても、植物の思惑だけで昆虫や野鳥が種を運んでくれるわけではないため、種を運んでもらうのにご褒美を用意しているものがいる。

 日本に自生するスミレ科のスミレ、タチツボスミレ、ユリ科のカタクリは、種にアリのエサとなるご褒美を付けている。これはエライオソームと呼ばれ、糖、アミノ酸、脂肪酸を含んでおり、これに誘引されたアリは種を巣に持ち帰り、エライオソームだけを食べる。食べ残しとなった種は巣の近くに捨てられ、そこで発芽。種を拡散できるというわけだ。

 エライオソームをご褒美にアリに種を運んでもらうにしても、どこに運ばれるかはアリ任せ。スミレやカタクリのように地面に根を張る植物なら、アリ任せで巣の周囲に種を撒いてもらえればまったく問題なしだが、木の枝に根を張って養分をいただくとともに、自分でも光合成を行って育つ半寄生植物のヤドリギの場合、地面に種を撒かれても育つことはできない。そのためヤドリギは種をビシンと呼ばれる粘着性の物質で包むことにした。

 このビシンは野鳥の胃の中でも消化されず、糞とともに種が排泄されると、ビシンの粘着力によってヤドリギの種は、野鳥のお尻にまるでキンギョの糞のように付着することになる。お尻に種が付着するのだから、野鳥にとってはさぞ気持ちの悪いことだろう。木の枝にお尻をこすりつけて種を取ろうとするが、これこそヤドリギが狙っていたこと。樹木の枝にこすりつけられたヤドリギの種はビシンの粘着力で枝に留まり、半寄生の生活を始めるようになる。

 発芽して以降はじっと動くことはない植物であるが、その分布を少しでも拡大させるため、それぞれの方法で種を拡散させているのである。

(文・斉藤勝司)