ロシアの復権をもくろむプーチン大統領の野心が、黒海沿岸のリゾート地ソチに冬季五輪を連れてきた。だが血なまぐさい歴史とテロの影が開催地を覆う。

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野心の祭典 プーチンのソチ五輪

ロシアの復権をもくろむプーチン大統領の野心が、黒海沿岸のリゾート地ソチに冬季五輪を連れてきた。だが血なまぐさい歴史とテロの影が開催地を覆う。

文=ブレット・フォレスト/写真=トマス・ドボルザック

 2014年2月7日に開幕するソチ五輪。フィギュアスケートやスキーのジャンプ競技に注目が集まるが、開催地であるソチとは、どんな場所なのか。

 ロシアはもはや大帝国ではない。それでも広大な領土をもつほかの国々と同様に、今もその復権を夢見ている。2週間にわたる冬季オリンピックが、その野心の舞台となる。
 だが、ロシア南西部の黒海沿岸にあるソチは、開催地にはおよそ似つかわしくない場所といえよう。つい最近まで内戦が続いていたグルジア共和国に隣接し、かつて山岳民族のチェルケス人の大量虐殺が行われたとされる土地だからだ。

 しかも周辺にはダゲスタン、チェチェン、イングーシ、カバルダ・バルカルなど、イスラム教徒の反政府勢力が台頭する共和国が集中している。
 一触即発のこの地域で治安を維持するために、ロシアは人々に恐れられた民兵組織「コサック」を復活させた。テロリストによる大会妨害の噂、暖冬による雪不足への懸念、ロシア議会で成立した反同性愛法の撤回を求める動きの活発化……こうした不安要素に対し、プーチンはオリンピック会期中のソチでの抗議活動や集会を禁止した。

準備費用は史上最高額の5兆円

 皇帝ニコライ2世の帝政時代から旧ソ連時代まで、黒海沿いの保養地ソチには北部の厳しい寒さから逃れて富裕層が集まり、さまざまな保養施設が建設された。だが、そうした建物も今ではさびれて朽ちかけている。ヤシの葉がそよぐ、ロシアでも数少ないこの亜熱帯気候の都市は、あか抜けない客しか来ない時代遅れの保養地となっていた。

 しかもオリンピックの開催地とはいえ、実際の競技は別の場所で行われる。スケート競技は南へ27キロの黒海沿岸にあるアドレル、スキー競技は東に47キロも離れたカフカス山脈の山間の村、クラースナヤ・ポリャーナが会場だ。

 アイスリンクや、ボブスレーとスキーのコースをはじめ、競技場は新たに建設されたものがほとんどだ。各会場を結ぶ鉄道や道路などのインフラも一から造られた。これまでに費やされた建設費は約5兆円超、過去のどのオリンピックよりも大金がつぎ込まれている。

 そもそもオリンピックはビジネスではない。だがソチでは、スポーツの祭典という本来の役割すらも二の次になっている。プーチンは、この大会を自らの功績の頂点として誇示すべく、10年以上も前から構想を温めてきたのだ。

 数年前まで、クラースナヤ・ポリャーナには人口数千人のひなびた村があるだけだった。住民が話す独特の方言や、頻繁に起きる雪崩のせいもあり、谷あいの村は外界から隔絶されていた。
 だが大規模な建設工事が始まって約2万人もの労働者が流入すると、村はすっかり様変わりした。さらにオリンピック開催の余波で、ここで大量の民族虐殺があったという、忘れ去られていた過去にも再び注目が集まっている。

※ナショナル ジオグラフィック2014年1月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 マツコ・デラックスもびっくりのフィギュア・スケートおたくの私は、トービル&ディーン組のボレロを生放送で見て衝撃を受けたクチ(あ、年齢がわかってしまう?)。当然五輪は、夏より冬に燃えるタイプです。プーチン大統領が大会を観戦したという本誌の写真。リンクの壁に日系企業の広告がずらりと並んでいるのも、しっかりチェックしました。去年のGPファイナルでしょうかね。ムムム。フィニッシュした日本のエースに、もしプーチンが満面の笑顔でスタンディングオベーションをしていたら? なんてったって曲はラフマニノフ。ありえる。いや、それって金メダルよりすごいことかも!……そんな勝手な妄想を楽しむ今日この頃です。(編集H.O)

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