世界各地から集められた、貴重な標本の数々を収めた博物館。そこは、地球を知る手がかりがぎっしり詰まった宝箱だ。

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博物館に収められた地球の不思議

世界各地から集められた、貴重な標本の数々を収めた博物館。そこは、地球を知る手がかりがぎっしり詰まった宝箱だ。

文=ジェレミー・バーリン/写真=ロザモンド・パーセル

 巨大なミズダコが、水槽のエタノール液に漬かっている。隣の瓶には発光生物ヒカリボヤ、壁にはタヒチ産の巻き貝の首飾り、棚には色とりどりのサンゴや藻類が並ぶ。

 230個ほどある収納ケースは、温度と湿度が調整できる特注品で、軟体動物の標本が1000万点も収められている。その多くは、英国のアーネスト・シャクルトンや米国のメリウェザー・ルイスといった探検家や、博物学者たちが世界中から持ち帰ったものだ。

 ここは米国ペンシルベニア州フィラデルフィアにあるドレクセル大学付属の博物館、自然科学アカデミーの収蔵庫だ。今いる軟体動物部門にたどり着くまでに、昆虫部門と古生物部門を通ってきた。どの部屋にも、貴重な資料が山ほど収蔵されている。

博物館の原点、16世紀ヨーロッパの「驚異の部屋」

 「発見」と言うと探検家の手柄ばかりが注目されがちだが、実際に多くの発見がなされるのは、こうした博物館の舞台裏だ。資料はここで分類され、ラベルを貼られて、目録に記載される。その際に新種が見つかることもあり、作業に数十年かかることも珍しくない。

 人類は、物を集めるのが好きなようだ。狩猟採集民だった時代の名残かもしれないし、混沌とした状況を整理しなければ気が済まない性分なのかもしれない。いずれにせよ所有への衝動は人間のさがと言えよう。進化生物学者のスティーブン・ジェイ・グールドは「収集に取りつかれた者の情熱は休むことを知らない。彼らにとって収集とは、神聖な行為なのだ」と記している。

 そんな強迫観念にも似た思いから生まれたのが博物館だ。16世紀前後、ヨーロッパの王侯貴族や医師たちは、さまざまな物を集めて一つの部屋に展示した。“驚異の部屋”と呼ばれたその空間には、動植物の標本や科学機器、芸術品から突然変異体の標本まで、美しい物や恐ろしい物、珍奇な物があふれていた。これが博物館の原型である。

 1億2600万点の標本を所蔵するスミソニアン国立自然史博物館のカーク・ジョンソン館長は言う。博物館の収蔵室は「自然に関する知識が実物そのままに保存されている場所です。ここは私たちにとっての宝物庫であり、自然科学の殿堂とも言えます」
 収蔵室はタイムマシンでもある。同館の鳥類学者は鳥の化石のデータから、ハワイに生息していた絶滅種を次々と発見している。

 近年では収蔵品のデジタル化が進んだおかげで、標本の整理が進み、研究者同士の情報交換も活発になったという。一般の人も遠方から収蔵品の情報にアクセスできるようになりつつあり、「今やiPhoneがあれば、マサイ族の戦士にも当館のコレクションを見てもらうことができます」とジョンソン館長は語る。

 とはいえ、デジタルデータが実物標本の代わりを果たせるわけではない。自然科学アカデミーの研究員は言う。「もし当館のコレクションが1800万点の標本ではなく、同じ数のデジタル画像だったとしたら、関心を示す人はそう多くはないでしょう」
 スミソニアン博物館のジョンソン館長も同意見だ。「ダーウィンは、生きとし生けるものはすべてつながっていると考えました。博物館の収蔵品はそのことを如実に物語っています。なかには絶滅種もありますが、私たちの手元にはそのDNAが残されています。博物館こそ、“地球の知を守る番人”なのです」

※ナショナル ジオグラフィック2014年1月号から一部抜粋したものです。

編集者から

 博物館の原型となったのは、中世ヨーロッパで生まれた「驚異の部屋」だそうです。この記事の編集を終えた頃、東京駅の商業施設「KITTE」を訪れました。すると、まさに「驚異の部屋」と題した特別展示が! 吸い込まれるように入りました。展示品はもちろん興味深いのですが(昆虫の標本に鳥のはく製、昔の医療器具などなど)、とにかく演出が凝っていて、驚異の部屋の雰囲気をたっぷり堪能できました。
 ちなみに場所はKITTEの2階にあるインターメディアテクの「モデュール」という展示スペース。現在開催中の「京都大学ヴァージョン」は来年5月までやっているようなので、興味のある方は特集を読んだ後に足を運んでみられると、おもしろいと思います。(編集M.N)

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